2021年11月15日公開

読んで役立つ記事・コラム

【アーカイブ記事】以下の内容は公開日時点のものです。
最新の情報とは異なる可能性がありますのでご注意ください。

社員にワクチン接種を義務付けることはできますか?

著者:岩野 麻子(いわの あさこ)

ワクチン接種、どうしよう……
冬になりますと、新型コロナウイルス感染症と風邪、もしくは季節性インフルエンザの見分けがつきにくくなります。このような中で、社員に新型コロナウイルスや季節性インフルエンザのワクチン接種を義務付けることはできるのでしょうか。また、ワクチン接種をためらう社員にその理由を尋ねてもよいものでしょうか。

1. 予防接種とは

そもそも予防接種とは、病気に対する免疫をつけたり、免疫を強めたりするために、ワクチンなどを接種することをいいます。ワクチン接種には、新型コロナウイルスのワクチン接種のように疾病の発生およびまん延を予防することに比重を置くものや、季節性インフルエンザのように個人の発病またはその重症化を防止することに比重を置くものなど、その目的により幾つかの類型があります。

目次へ戻る

2. 新型コロナウイルスのワクチン接種は努力義務

季節性インフルエンザの予防接種は、原則として接種を受けることを法律上義務付けられておらず、また、努力義務も課されてはいません。しかし新型コロナウイルスのワクチン接種は、「感染症の緊急のまん延予防の観点から実施するもの」とされ、私たちには接種の努力義務が課されています(予防接種法第9条)。とはいえ、努力義務は義務とは異なるため、接種が強制されることはありません。最終的には、あくまでも本人が納得したうえで接種を受けるか判断することとなります。

目次へ戻る

3. 社員にワクチン接種しない理由を問いただすことはできるか

職場における感染症対策やワクチン接種はどのように進めたらよいのでしょうか。企業が社員の健康を確保するため、その一環として手洗い、うがい、マスクの着用と並んでワクチン接種を推奨することには何ら問題はありません。また、原則として社員はこれに協力することを求められます。
また、ワクチン接種をしない社員に対しても、安全配慮の観点から、企業側が社員にワクチン接種をしない理由を問うこと自体は可能です。その理由が、業務多忙やワクチン接種により仕事を休むことで所得が減少することであれば、ワクチン接種ができるよう業務を調整したり、所得に影響がないよう有給の「ワクチン休暇」を創設したりしてもよいでしょう。
一方で、副反応のリスクへの不安や医学的な理由で接種が受けられない、といった理由であれば注意が必要です。ワクチン接種を推奨する代わりに、必要に応じてPCR検査を行うといった代替案を検討してはいかがでしょうか。

目次へ戻る

4. 社員にワクチン接種を義務付けた場合、企業にはどんなリスクがあるか

ワクチン接種は強制ではなく、あくまで社員本人の意思に基づき受けるものです。そのため、厚生労働省でも「受ける方の同意なく、接種が行われることはありません」としています(厚生労働省 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)2021年10月1日版)。
一方で、企業が感染症対策の一環として本人の意思に反して強くワクチン接種を推奨したり、強制したりした結果、ワクチンを接種した社員に副反応などの健康被害が起きてしまった場合は、企業は損害賠償責任を追及される恐れがあります。
加えて、職場で接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをしたりすることで当該の社員が嫌な思いをするのであれば、これがハラスメントに当たる可能性もあります。
医学的な理由で接種を受けられない人もいることを念頭に置いて、接種に際しては細やかな配慮を行うようにしましょう。
社員一人一人が、予防接種による感染症予防の効果と副反応のリスクの双方について、自らの意思で冷静に判断できるよう、企業は社員への正確な情報提供に努めることが重要です。

  • *本記事中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容等は公開時点のものです。

目次へ戻る