2022年 2月21日公開

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事業場外労働のみなし労働時間制の正しくない運用とは?

著者:岩野 麻子(いわの あさこ)

事業場外労働のみなし労働時間制はもう古い?
「会社から貸与されているスマートフォンやパソコンを使って仕事をしている場合、みなし労働時間制は適用できないのでは?」という質問を受けることがあります。現代の働き方において、事業場外労働のみなし労働時間制を適正に運用することは難しいのでしょうか。

1. 事業場外労働のみなし労働時間制

事業場外労働のみなし労働時間制とは、労働者が業務の全部または一部を事業場外(取引先への外出や自宅など)で従事し、使用者の指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合に使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度です(労働基準法第38条の2)。
事業場外労働のみなし労働時間制は従来、出張者や営業社員、在宅勤務者へ適用されていましたが、近年では、スマートフォンなどの情報通信機器の普及により労働時間の算定が容易になったことで、適用の機会が減りつつありました。ただその一方で、時間や場所にとらわれない働き方も増えてきており、再び注目を集めつつあります。

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2. 事業場外労働のみなし労働時間制が認められない場合

事業場外労働のみなし労働時間制の一番の注意点は、この制度が適用できないにもかかわらず制度を適用してしまうことです。以下のような場合は、労働時間の算定がし難いとは言い切れず、みなし労働時間制の適用が認められませんので注意しましょう。

  • 数人のグループで事業場外労働し、その中に労働時間の管理をする人がいる場合
  • 情報通信機器などにより、随時会社の指示を受けながら勤務している場合
  • 会社で訪問先、帰社時刻などの指示を受けた後、事業場外で指示どおりに勤務し、その後、会社に戻る場合

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3. 事業場外労働のみなし労働時間制を正しく運用するためのポイント

1. 労働時間の算定をしない

事業場外労働のみなし労働時間制は、「労働時間を算定することが困難なとき」に適用できる制度です。そもそも労働時間の算定が可能であるときは、この制度を適用することができません。

2. 客観的な出退勤の記録は残す

1と矛盾するように感じるかもしれませんが、労働者への安全配慮義務などの観点からも、出勤・退勤の時刻を記録し、出勤簿やタイムカードなどの客観的な記録を残すことは必要です。この記録はあくまで、出勤と退勤の時刻のみを記録したもので、その間労働したことを証明するものではありません。

3. 業務遂行の手段や時間配分を労働者に委ねる

事業場外労働のみなし労働時間制が適用されるためには、「随時、会社の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」が必要です。営業社員であれば、取引先への営業方法や訪問頻度などを自分で決められるなど、営業社員の裁量が広く認められていることがポイントです。

4. 労働者の即応を義務付けない

会社が労働者に対し、電話やチャットで「いつでも連絡が取れる状態にしておくこと」を義務付けた場合、その間は全て手待ち時間となり、労働時間に算入すべき時間とみなされる可能性があります。また、即応義務のある時間とない時間を区別することができるため、労働時間の算定が可能となり、事業場外労働のみなし労働時間制の適用ができません。

5. 会社貸与のスマートフォンに関するそのほかの注意点

会社からスマートフォンなどの情報通信機器が貸与されている場合であっても、その使用目的が取引先とのやりとりが主である場合は、貸与の事実のみをもって事業場外労働のみなし労働時間制の適用対象外とは判断されません。会社から社員への連絡も、取引先から電話があった旨の伝言など、専ら業務の指示ではなく単なる事務連絡にとどまる場合は、業務遂行のための具体的な指示がなされたとはいえず、事業場外労働のみなし労働時間制の適正な運用の範囲と認められます。

6. 日報などで結果の報告を求めることは可能

事業場外労働のみなし労働時間制の適用を受ける社員についても、その社員の能力やスキルに見合った指導や研修を行ったり、人事評価をしたりすることは必要です。そういった意味でも、訪問先でどのような提案をし、どのような結果を残したのかなど、その日の活動や業務について会社に報告を求めることは問題ありません。

7. 通常必要時間が所定労働時間を超える場合は残業代などの支払いが必要

事業場外労働が常態として所定労働時間を超えて行われるなど、所定労働時間を超えることが通常必要となるときは、通常必要時間分の給与を支払う必要があります。加えて、その時間が深夜・休日である場合は、その分の割増賃金も必要となる点に留意しましょう。

8.社員の健康への配慮を怠らない

事業場外労働のみなし労働時間制の適用がある場合、労働時間の算定が困難であるため、長時間労働に気付きにくくなるというデメリットがあります。早朝出勤や深夜までの勤務が続いている社員へは、適宜声掛けを行うなどして健康への配慮も怠らないようにしましょう。

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4. 運用を適宜見直すことで、新しい働き方にもフィットする制度へ

事業場外労働のみなし労働時間制を正しく運用するためには、実際の運用を適宜見直すことが重要です。電話やチャットで即応を求めていないか、業務の遂行は労働者の裁量に委ねられているかなど適宜運用を見直すと良いでしょう。なお、事業場外労働のみなし労働時間制は、職種によってはテレワークにも適用できる可能性があります。新しい働き方にフィットし、労働者の働きやすさにつながるなら、検討してみるのも良いでしょう。

  • *本記事中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容等は公開時点のものです。

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