2022年 2月24日公開

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初めての管理職【第3回】ハラスメント

執筆:マネジメントリーダーWEB編集部

管理職として「指導・教育とハラスメントの違い」を正しく理解する。
優位な立場や権限を有する管理職が気を付けなければならないのが、部下に対してのハラスメント行為です。中でも間違えやすい指導とハラスメントの違いについて解説します。

1. ハラスメント行為を理解する

管理職になったら、最初に「ハラスメント」を正しく理解しましょう。部門のリーダーであり責任者である管理職は、役割上決裁権などのさまざまな権限を有するため、自身がハラスメントの加害者となってしまう可能性が高くなります。また、部下の間でもいじめなどのハラスメント行為が発生する場合があり、管理職はそれを解決しなければならない役割を担っているからです。

コンプライアンス(法令順守)の高まりとともに、ハラスメントに対しての見方は厳しさを増しています。ハラスメントを容認することは、信頼感の欠如、人間関係の悪化や士気の低下につながり、退職者の増加など業務効率を低下させる大きな要因となります。

では、どのような行為がハラスメントとなるのでしょうか。ここでは管理職が行ってしまいやすいパワーハラスメント(パワハラ)を中心に解説します。

パワハラの定義

分かりにくいとされているのが、パワハラの定義です。「厳しく指導していたことがパワハラと認定された」など、部下への指導・教育・命令などがパワハラと判断されるケースがあります。かつてはハラスメントの定義はあいまいでしたが、「労働施策総合推進法」(通称:パワハラ防止法)が改正され、職場におけるパワハラ対策が義務化されました。大企業は2020年6月から施行され、中小企業も2022年4月1日から施行されます。国内に存在する全企業がパワハラ防止法の対象となります。

パワハラ防止法では、以下の3点をパワハラと定義しています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
    • 当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然(がいぜん)性(可能性・確実性の度合い)が高い関係を背景として行われるもの
      (例)
      • 管理職など、職務上の地位が上位の者による言動
      • 同僚または部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験があり、当該者の協力を得なければ業務を円滑に遂行することが困難である場合
      • 同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難である場合。いわゆるいじめ行為が相当
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
    • 社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、またはその態様が相当でないもの
      (例)業務の目的を大きく逸脱した言動、達成困難なノルマを課すなど、いわゆる「無理難題」を押し付ける行為
  3. 労働者の就業環境が害される
    • 当該言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じること
    • この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当
      (例)多数の社員の前で叱咤(しった)する、残業・休日出勤を強いるなど、労働者が苦痛やストレスにより健康を害したり、メンタル系疾患を患ったりする場合

では、具体的にどのような場合がパワハラと判断されるのでしょうか。厚生労働省のハラスメント防止に関する資料では、代表的な事例を以下のようにまとめています。

パワハラに該当すると考えられる事例/該当しないと考えられる事例

  • * 優越的な関係を背景として行われたものであることが前提
代表的な言動の類型該当すると考えられる例該当しないと考えられる例
(1)身体的な攻撃
(暴行・傷害)
  1. 殴打、足蹴りを行う
  2. 相手に物を投げつける
  1. 誤ってぶつかる
(2)精神的な攻撃
(脅迫・名誉毀損(きそん)
・侮辱・ひどい暴言)
  1. 人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む
  2. 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)を繰り返し行う
  3. ほかの労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
  4. 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メールなどを当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する
  1. 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意
  2. その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動をした労働者に対して、一定程度強く注意
(3)人間関係からの切り離し
(隔離・仲間外し・無視)
  1. 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
  2. 1人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる
  1. 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修などの教育を実施する
  2. 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる
(4)過大な要求
(業務上明らかに
不要なことや遂行不可能な
ことの強制・仕事の妨害)
  1. 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
  2. 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
  3. 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
  1. 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
  2. 業務の繁忙期に業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる
(5)過小な要求
(業務上の合理性なく
能力や経験とかけ離れた
程度の低い仕事を
命じることや仕事を
与えないこと)
  1. 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
  2. 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない
  1. 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する
(6)個の侵害
(私的なことに過度に
立ち入ること)
  1. 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
  2. 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報(注)について、当該労働者の了解を得ずにほかの労働者に暴露する
  1. 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況などについてヒアリングを行う
  2. 労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報(左記)について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す
  • * 実際は状況により判断が異なる場合もあります。
  • (注)プライバシー保護の観点から、機微な個人情報を暴露することのないよう、労働者に周知・啓発するなどの措置を講じることが必要です。

実際の社会では、これ以外にもさまざまなハラスメント事例が発生しています。ハラスメントの判断基準は、ハラスメント行為の起きた状況や加害者と被害者の関係にもよりますが、感情的になることやコミュニケーション不足(信頼関係の不足)がハラスメントと判断される大きな要因になると思われます。

参考

厚生労働省 北海道労働局 雇用環境・均等部「改正労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止対策)及び改正女性活躍推進法について」

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2. ハラスメントを防止するためにはまず「イライラしない」

日常的に円滑なコミュニケーションを取り、相手に対して感情的にならないことを徹底することでハラスメントを起こすリスクは減少します。さらに、バランスの取れた社会通念や常識を持つことも必要です。例えば、「女の役割は……」「男とはこうあるべき」といった性別に対する固定観念を持っている、場が盛り上がれば下ネタでも平気で言う、自分の考えに異を唱える相手を嫌う、人の好き嫌いが激しい、いじめやハラスメントには無関心など、これらに一つでも当てはまる場合は要注意です。

イライラしないために

イライラすることはハラスメントを発生させる大きな要因となります。部下が「同じミスを繰り返す」「自分の指示に従わない」「話し方が気に入らない」など、イライラする原因はさまざまだと思います。しかし、これに対して相手を怒鳴りつけても原因は解消しません。落ち着いて原因を解決することが必要です。

例えば、同じミスを繰り返す場合は、社員の性格によるものなのか、それ以外の要因なのか、ミスによって周囲にどのような負担をかけているのかを客観的に分析します。そのうえでミスが発生しないよう、目立つように注意書きを掲示するなど改善策を講じます。感情的にならずにどうすればミスを防げるかを考察し、対策を実施しミスの少ない業務環境を構築しましょう。

部下の行動が自分の指示と異なる場合も、ミスの解消と同様にその原因を探ります。相手の原因だけでなく、自分自身の考えがきちんと伝わっているか、指示の仕方が適切だったかも振り返りましょう。指示があいまいだったり二転三転したりすると、意図が伝わらないことがあります。管理職として部下が行動しやすいような具体的で理解しやすい指示をするスキルを身に付けましょう。

これらを改善する過程で、部下と自身の考えを互いに理解し合うことが可能となります。このように信頼関係を醸成するコミュニケーションを心掛けましょう。

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3. ハラスメントのない快適な職場環境を目指して

ハラスメントをなくすことで、部下が伸び伸びと活躍できる環境が実現します。お互いに意見を出し合い、改善すべき点は迅速に対処することで業務効率を向上させることができます。

ハラスメントを防止するには、自分自身を律することと、部下の理解と協力を得ることが大切です。部下から信頼される管理職として活躍するために、パワハラだけでなく、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、マタニティーハラスメント(マタハラ)などにも敏感になって絶対にハラスメントをしないように心掛け、部下の間でハラスメントが起こった場合もしっかりと対処しましょう。

参考

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4. 今、あらためて学ぶ ハラスメント対策とは

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ハラスメント対策は管理職だけでなく、中堅社員、新人教育担当、新入社員を含む全社員が関わる問題です。ハラスメントは従業員のモチベーション低下、職場の雰囲気の悪化、優秀な人材の流出、メンタルヘルスの不調が業務効率・生産性の低下などにもつながります。新入社員、人事異動の多いこの時期だからこそ、あらためてハラスメントについて学んでみませんか。

  • *本記事中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容等は公開時点のものです。

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