2023年 3月20日公開

読んで役立つ記事・コラム

ご存じでしたか? 未払い賃金が請求できる期間などが延長されています

著者:岩野 麻子(いわの あさこ)

2020年4月1日に施行された改正労働基準法で、賃金などの請求権の消滅時効は2年から当分の間3年に延長されました。この期間は、いずれ5年に延長される予定ですが、勤怠管理や賃金計算は適正に行われているでしょうか。また、未払い賃金などはないでしょうか。

1. 法改正の経緯

そもそも、2020年4月1日から施行された「民法の一部を改正する法律」では、それまで債権の種類ごとに設定されていた時効期間が「債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間、権利を行使できるときから10年間」に整理されました。

民法の特別法である労働基準法は本来、同様に時効に関するルールが改正されるべきですが、賃金などの請求権の消滅時効は仮に見直すとなると実務上に影響が大きく、企業側の負荷がかなり大きくなるという課題がありました。そのため、適正な労務管理の実施と改正法の内容を踏まえた実務対応に猶予が必要とされ、賃金請求権などの消滅時効期間は当面の間3年間とされました。

目次へ戻る

2. 労働基準法の改正概要

2020年4月1日に施行された改正労働基準法の概要は以下の通りです。
2020年4月1日以降に支払期日が到来する賃金が対象となり、起算日は賃金支払日の翌日から3年となります。時効延長の対象となるのは、通常の賃金に加え、休業手当や時間外割増賃金、年次有給休暇中の賃金などとなります。

 旧法現行法
賃金請求権の消滅時効期間
(労働基準法115条)
2年5年(当分の間は3年)
記録の保存期間
(労働基準法109条)
3年5年(当分の間は3年)
付加金の請求期間
(労働基準法114条)
2年5年(当分の間は3年)

なお、以下の期間については、変更ありません。

 旧法現行法
年次有給休暇、帰郷旅費、
退職時などの証明、賃金を除く金品の返還、
災害補償の請求権
2年2年のまま
退職金の請求権
(就業規則などにより、あらかじめ支給条件が
明確にされている場合)
5年5年のまま

目次へ戻る

3. 記録の保存期間

記録の保存期間については、「当分の間は3年」とされていますが、将来を見越して、今後は5年間保存することが望ましいでしょう。各記録の具体例と保存期間の起算日は以下の通りです。

 具体的な記録の例保存期間の起算日
(1)労働者名簿 労働者の退職などの日
(2)賃金台帳 最終記入日(支払期日がこれよりも遅い場合は当該支払期日)
(3)雇い入れに関する書類雇用契約書、労働条件通知書、履歴書など労働者の退職などの日
(4)解雇に関する書類解雇決定関係書類、予告手当または退職手当の領収書など労働者の退職などの日
(5)災害補償に関する書類診断書、補償の支払い、領収関係書類など災害補償が終わった日
(6)賃金に関する書類賃金決定関係書類、昇給減給関係書類など完結の日(支払期日がこれよりも遅い場合は当該支払期日)
(7)その他の労働関係に関する重要な書類出勤簿、タイムカードなどの記録、労使協定の協定書、各種許認可書、残業命令書や日報、休職関係書類、退職関係書類など完結の日(支払期日がこれよりも遅い場合は当該支払期日)
(8)労働基準法施行規則・労働時間等設定改善法施行規則で保存期間が定められている記録年次有給休暇管理簿、労働時間に関する記録や議事録など完結の日(支払期日がこれよりも遅い場合は当該支払期日)

目次へ戻る

4. 付加金の請求期間

付加金とは、裁判所が労働者の請求により、事業主に対して未払い賃金に加えて支払いを命じることができるものです。2020年4月1日以降に、割増賃金などの支払いがされなかったなどの違反があった場合、付加金を請求できる期間は3年となります。

なお、付加金制度の対象となるものは、解雇予告手当、休業手当、時間外割増賃金、年次有給休暇中の賃金の四つとなり、裁判を通じてのみ支払いが命じられることとなります。

目次へ戻る

5. 未払い残業を発生させないために

法令で定める記録のほか、職場の入退出記録やパソコンのログオン・ログオフ記録、業務用メール・チャットツールの送受信記録など、勤怠記録、残業記録につながる記録に矛盾やおかしな点はないか確認しておきましょう。業務が終わったら速やかにタイムカードを打刻する、残業する場合は必ず上司の許可を得るなど、実際の勤怠記録と労働時間の間に大幅な乖離(かいり)がない状態にしておくことが大切です。

また、万が一、記録と労働時間に乖離(かいり)があった場合は、その都度こまめに実態を確認するなどして、あいまいな運用を続けないようにしましょう。労働者の確認を受けた記録や書面については、署名や捺印をもらっておくと、労使双方の認識合わせになり、働く側にとっての安心感にもつながると思います。

目次へ戻る