1. 賃金支払いの5原則とは
労働基準法第24条では、賃金について以下のように定めています。
- 通貨で支払うこと
- 直接労働者に支払うこと
- 全額を支払うこと
- 毎月1回以上支払うこと
- 一定の期日を定めて支払うこと
上記のうち、賃金の支払い方法の例外として、使用者は労働者の同意を得た場合には、次の方法によることができるとされています(労働基準法施行規則第7条の2)。
- 労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する振り込み
- 労働者が指定する金融商品取引業者に対する労働者の預かり金への払い込み
- 資金決済に関する法律(資金決済法)に規定する資金移動業者であって、厚生労働大臣の指定を受けた者(指定資金移動業者)のうち、労働者が指定する口座への資金移動(いわゆる賃金のデジタル払い)。
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2. 賃金のデジタル払いをする場合に知っておきたいポイント
賃金のデジタル払いが認められる振込先は、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣が指定した資金移動業者のみです。また、指定資金移動業者口座は、預金をするためのものではなく、支払いや送金をすることが主な目的とされているため、その点を理解したうえで利用すると良いでしょう。そのうえで、知っておきたいポイントをご説明します。
現金化も可能(毎月1回は手数料負担なし)
賃金のデジタル払いは、現金化できる口座であることが必須となります。そのため、現金化できないポイントや、仮想通貨での支払いは認められていません。
ATMや銀行口座などへの出金により、口座残高を現金化(払い出し)する場合、少なくとも毎月1回は労働者の手数料負担なく口座から払い出しができます。ただし、払い出し方法などは指定資金移動業者により異なりますので利用前に確認するようにしましょう。
目的・用途別に、支払先を分けることも可能
賃金の一部を指定資金移動業者口座で受け取り、その他は銀行口座などで受け取ることも可能です。例えば、手取り給与25万円のうち、支払い用の資金5万円を資金移動業者口座に、残りの資金20万円を銀行口座に分けて受け取ることもできます。
口座の上限額は100万円以下
指定資金移動業者口座の上限額は100万円以下に設定されています。上限を超えた場合は、あらかじめ労働者が指定した銀行口座などに自動的に出金されます。この際の手数料は労働者負担となる可能性がありますのであらかじめ注意しましょう。
口座残高の払戻期限は少なくとも10年間
口座残高については、最後の入出金日から少なくとも10年間は、申し出などにより払い戻してもらうことができます。
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3. 賃金のデジタル払い導入の手順
企業が賃金のデジタル払いを導入する際の手順は以下の通りです。
1. 説明会の実施
賃金のデジタル払いについて、対象となる労働者に対し銀行口座に振り込む場合との違いやメリット、デメリット、注意点など、必要な事項について説明します。
2. 労使協定の締結
賃金のデジタル払いを行うためには、事業主と労働者代表の間で労使協定の締結が必要となります。労使協定に記載すべき主な内容は以下の通りですが、賃金を銀行などの金融機関口座に振り込みにて支払う場合の協定書を参考に作成してみると良いでしょう。
- 対象となる労働者の範囲
- 対象となる賃金の範囲およびその金額
- 取扱指定資金移動業者の範囲
- 実施開始時期
3. 給与規定の改定
賃金の支払い方法に関する事項は、就業規則や賃金規定の絶対的記載事項に該当します。そのため、支払い方法の一つとして、デジタル払いを追加する場合には、規定の改定が必要となります。
就業規則、賃金規定への記載例
第●条(賃金の支払方法)
賃金は通貨で直接従業員にその全額を支払う。
2 前項の規定にかかわらず、労使協定を締結し、かつ従業員の同意を得た場合は、特別な事情がない限り、本人が指定した本人名義の銀行等の金融機関口座へ振り込むこととする。
3 第一項、および第二項の規定にかかわらず、労使協定を締結し、従業員の同意を得た場合は、賃金の一部または全部を本人が指定した取扱指定資金移動業者の口座への資金移動として支払うこととする(いわゆる賃金のデジタル払い)。ただし、会社および取扱指定資金移動業者の都合により、第二項の金融機関口座への振込、または現金で支給する場合もある。
4. 同意書への署名、押印など
給与のデジタル払いを導入するためには、各労働者の個別の同意が必要です。
同意書の様式例はこちらです。
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4. 引き続き、銀行振り込みで賃金を受け取ることも可能
賃金のデジタル払いは、希望する労働者のみが対象となります。そのため、デジタル払いを希望しない労働者は、引き続き銀行口座への振り込みなど、従来通りの方法で賃金を受け取ることができます。デジタル払いのメリットや注意点を知ったうえで、今後の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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