2023年 6月19日公開

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上限規制待ったなし!時間外労働の2024年問題とは

著者:岩野 麻子(いわの あさこ)

働き方改革の一環として、時間外労働の上限が労働基準法に明文化され、2019年4月(中小企業は2020年4月)から施行されていますが、一部の適用猶予事業・業務についても2024年3月31日で猶予期限が終了し、上限規制が適用されることになっています。

1. 法定時間外労働の上限とは

そもそも労働時間は、原則として1日8時間、1週40時間までと労働基準法で定められています(法定労働時間)。これを超えて働くことを法定時間外労働といい、その上限と、これを超えて労働者を働かせる場合に必要となる手続きについては、以下のとおりです。

 必要な手続き残業時間の上限
原則時間外・休日労働に関する協定届(一般条項)様式第9号(通称・36協定)の締結・届け出1カ月45時間、年間360時間以内(限度時間)
臨時的な特別な事情がある場合上記に加え、時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項)様式第9号の2(通称・特別協定)の締結・届け出
  1. 単月で100時間未満、年間720時間(法定休日労働含む)
  2. 複数月平均80時間以内(法定休日労働含む)、なお原則の限度時間を超えて時間外労働を延長できる月は年6回が限度

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2. 適用猶予とは

一方、上記の上限規制の例外として、以下の事業・業務については、長時間労働を背景に業務の特殊性や取引慣行の課題があることから、上限規制の適用が5年間猶予され、また、一部特例つきで適用されていました。2024年4月以降はこの猶予が終了し、以下の取り扱いに変更されます。

事業・業務猶予期間終了後の取り扱い(2024年4月以降)
工作物の建設の事業原則:上限規制が全て適用
例外:災害時における復旧および復興の事業
時間外労働と休日労働の合計について月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制は適用されない。
自動車運転の業務
  • 特別条項付き36協定締結時の年間時間外労働の上限が、年間960時間となる。
  • 時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制が適用されない。
  • 時間外労働が月45時間を超えることができる月は年6回までとする規制は適用されない。
  • その他、拘束時間の改善に関する基準あり。
医業に従事する医師特別条項付き36協定を締結時の年間時間外・休日労働の上限が、最大で1,860時間となる(一般的な医師の上限時間は年間960時間・単月100時間未満。ただし例外あり)。
  • 時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制が適用されない。
  • 時間外労働が月45時間を超えることができる月は年6回までとする規制は適用されない。
  • その他、医療法などに追加的健康確保措置に関する定めあり。
鹿児島県および
沖縄県における
砂糖製造業
上限規制が全て適用される。

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3. 時間外労働に関するよくある質問

副業者の時間外労働はどう算定するか

労働時間は事業場を異にする場合においても通算することと定められています(労働基準法第38条)。そのため、副業などにより同月中にA社とB社で勤務した労働者がいる場合には、その方については、時間外労働と休日労働の合計で、単月で100時間未満、複数月平均で80時間以内となるよう、労働時間を把握しておく必要があります。

出向者は出向元と出向先、どちらの36協定が適用されるか

出向元である使用者との雇用関係を維持しながら、出向先との間にも雇用関係を発生させる在籍出向の場合であっても、出向者は通常、出向先の指揮命令を受け、出向先で就業することとなります。そのため、特段の取り決めがなければ、出向者には出向先の36協定が適用されることとなります。また、副業の場合と同様に、同月中に出向元と出向先の両社に勤務する労働者は、両社を通算して上限時間内となる必要があります。

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4. 心身ともに、健康に働ける職場への第一歩とは

2024年4月の猶予期間終了後は、建設業に従事する方やドライバーの方などとしては、長時間労働が是正され働きやすくなる一方、企業にとっては長時間労働をどう減らしていくか、働き手不足をどう解消するのかが、大きな課題となっています。

いずれは機械化や自動運転などの導入で少ない人員でも現場を回せるようになるかもしれませんが、喫緊の課題として、労働時間を減らした分、新たな働き手を確保する必要がありそうです。このような事情を鑑み、業界全体として、請負金額および運賃の適正化や業界全体の魅力付けについての有効な議論が進むことが望まれます。

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