2023年 8月21日公開

【連載終了】読んで役立つ記事・コラム

裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です

著者:岩野 麻子(いわの あさこ)

裁量労働制は、業務遂行の手段や時間の配分などを労働者に委ねる労働時間制度で、正しく使えば対象となる労働者は自らの裁量で働き方が選べる一方で、会社側が適用範囲を拡大解釈する、対象となる労働者側に十分な説明を行っていない、といったことが一部で課題となっていました。

1. 裁量労働制に係る省令・告示の改正

2024年4月1日より、新たに、または継続して裁量労働制を導入するためには、裁量労働制を導入する全ての事業場で、対象労働者の同意を得る、労使協定を締結し直すなどの対応が必要となります。そのうえで、裁量労働制を導入・適用するまで(継続導入する事業場では2024年3月末まで)に、労働基準監督署に協定届・決議届の届け出を行う必要があります。

目次へ戻る

2. 裁量労働制の種類

裁量労働制には、二つの種類があります。

専門業務型裁量労働制業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務として省令および告示によって定められた19の業務(デザイナー、システムコンサルタントなど)の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務につかせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度。
企画業務型裁量労働制対象事業場(本社・本店など)の、対象業務(事業運営の企画、立案、調査および分析の業務で業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるなど)に、対象となる労働者(知識、経験を有しているなど)をつかせたときに、現実の労働時間にかかわらず労使委員会で決議した時間を働いたものとみなすことができる制度。

目次へ戻る

3. 裁量労働制を導入・適用するまでの流れ

1. 事前準備

専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制ともに、対象者となる労働者は要件に該当する方のみです。対象者の業務の性質や、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねているかなど、再度確認しておきましょう。

2. 法改正で新たに必要となった事項について対応する

2024年4月1日以降、新たに、または継続して裁量労働制を導入するためには、裁量労働制を導入する全ての事業場で、必ず、以下の追加対応が必要です。

  • 専門業務型裁量労働制の労使協定に下記(1)を追加する。
  • 企画業務型裁量労働制の労使委員会の運営規定に下記(2)(3)(4)を追加後、決議に下記(1)(2)を追加する。
対応が必要な事項専門業務型企画業務型
1. 専門業務型裁量労働制:本人の同意を得る。同意しなかった場合に不利益取り扱いをしないことを労使協定に定める。また、同意の撤回の手続きを定め、同意とその撤回に関する記録を保存することについても労使協定に定める。
企画業務型裁量労働制:同意の撤回の手続きを定め、その記録を保存することについて労使委員会の決議に定める(同意に関することは、労使委員会の決議に定めることが既に義務付けられている)。
2. 対象労働者に適用される賃金・評価制度の労使委員会への説明に関する事項を運営規定に定める。また、制度変更前に変更内容の説明を行うことを労使委員会の決議に定める。
3. 労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う旨、運営規定に定める
4. 労使委員会は6カ月以内ごとに1回開催する旨、運営規定に定める
5. 定期報告は、初回は6カ月以内に1回、その後1年以内ごとに1回の頻度で行う

3. 健康・福祉確保措置を実施する

以下の措置から、それぞれ一つずつ実施することが望ましいとされています。なお、勤務状況と健康状態を踏まえ、必要と認められる労働者に対しては「労働時間の上限措置」を実施することが望ましい対応となります。

事業場の対象労働者全員を対象とする措置個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置
  • 勤務間インターバルの確保
  • 深夜労働の回数制限
  • 労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)
  • 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めたその取得促進
  • 一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
  • 代償休日または特別な休暇の付与
  • 健康診断の実施
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口設置
  • 適切な部署への配置転換
  • 産業医等による助言・指導または対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること
  • * 太字の項目は今回の制度改正による追加事項です。

4. 協定届、決議届を労働基準監督署に届け出する

裁量労働制を導入・適用するまで(継続導入する事業場では2024年3月末まで)に、上記の対応を済ませたうえで、労働基準監督署に協定届・決議届の届け出を行う必要があります。今回掲載した内容のほかにも、今回の改正においてさまざまな留意事項がありますので、詳細については、厚生労働省からの指針やリーフレットなどをご確認ください。

目次へ戻る

【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介