2023年 5月23日公開

企業のITセキュリティ講座

IPAが「デジタルスキル標準」を策定、いま求められる人材とは?

ライター・吉澤亨史

  • セキュリティ

現在の企業の多くは、DX(デジタルトランスフォーメーション)が求められている。DXとはデジタル化とそれによって集められるデータを分析、活用してビジネスを変革するというもの。そのためには、デジタル化はもちろん、データを分析し活用できる人材が必要になる。IPAは「デジタルスキル標準(DSS)」を策定し、個人の学習や企業の人材確保・育成の指針を定義している。今回は、DSSを軸にDX時代に求められるスキルを解説する。

1. デジタル化におけるリスク

経済産業省が発表した「DXレポート」を受けて、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。DXは、デジタルを活用して自社のビジネスを変革するというもの。DXレポートは既に2.2にバージョンアップされているが、その根拠は1.0で述べられている「デジタル化による競争力の強化」「人材の減少」「システムの老朽化」である。

デジタル化は、業務においては進んできている。例えば、これまで紙で収集・管理していた販売状況等をデジタル化し、データとして蓄積していくことで参照や検索が容易になり、結果として業務効率が向上する、というようなシナリオだ。こうした“過去のデータの可視化”は、多くの企業が実現しつつある。しかし、DXで求められるのはビジネスの変革である。

そのためには、現場の販売データ=ユーザーの購買情報だけでなく、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)など外部にわたり広く情報を収集し、分析していくことが必要になる。もともとは本屋であったAmazonは、オンラインショップを開設するとともに顧客の購買情報を分析、「〇〇を買う人は△△も買う」といった関連性を把握し、レコメンドとして顧客に提案していくことで売り上げを伸ばした。

さらに、オンラインショップでのアクセス急増への対応などのために開発したクラウド環境運用の経験を生かし、仮想環境を提供するクラウドサービスも開始している。こうしたデジタルの活用によるビジネスの変革がDXといえる。一方で、デジタル化にはリスクもつきまとう。デジタルデータはインターネット経由でアクセスすることが可能なため、重要なデータを第三者に盗み出される可能性があるからだ。

もちろん、企業は盗難を阻止するためにセキュリティ対策を行っているが、巧妙で複雑な手法により対策を破られる可能性もある。また、人によるリスクも無視できない。企業のルールを破りデータを外部に持ち出し、紛失したり他社に渡したりする恐れもある。近年では、クラウドサービスの設定ミスにより、重要なデータが公開状態になってしまうケースも増えている。デジタル化は必要な施策であるが、同時に保護対策と人材育成・教育も重要となる。

経済産業省では、DXを推進するための「DX推進指標」を公開している

転載元:IPA「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2019年版)」

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2. IPAが「デジタルスキル標準(DSS)」を策定

こうした状況から、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が「デジタルスキル標準(DSS)」を公開した。企業がDXを実現する上で必要となる人材の人材確保・育成の指針となるものだ。DXを推進するには、企業内の一人一人がDXに理解・関心を持ち自分事として捉えることが重要となる。これに加え、DXに関連する専門性をもった人材も必要となる。

そこでIPAでは、デジタルスキル標準に「DXリテラシー標準(DSS-L)」と「DX推進スキル標準(DSS-P)」の2種類の人材を定義している。DSS-Lは、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準。DSS-Pは、DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準となる。

DSS-Lでは、環境変化やDXが推進される世の中で、ビジネスパーソン一人ひとりが、よりよい職業生活を送るためには、従来の「社会人の常識」とは異なるものも含む知識やスキルの学びの指針が必要としている。

DSS-Lに沿った学びにより、世の中で起きているDXや最新の技術へのアンテナを広げることができ、DXリテラシー標準の内容を身につけることにとどまらず、日々生まれている新たな関連項目・キーワードにも興味を向けることができる。また、それを起点として、日々生まれる新たな技術・言葉(バズワードと呼ばれるものも含め)の内容や意味を自ら調べる姿勢が求められる。

DSS-Lは、社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要な意識・姿勢・行動を定義する「マインド・スタンス」をベースに、「Why:DXの背景」「What:DXで活用されるデータ・技術」「How:データ・技術の利活用」を学んでいく。IPAではさらに、DSS-Lにおけるスキル・学習項目の概要と詳細が提供されており、セキュリティやモラルについても具体的な学習項目が例示されている。Why、What、HowをDXに関するリテラシーとして身につけるべき知識の学習の指針とすることで、人によるリスクを大きく低減できる。

DXリテラシー標準(DSS-L)の全体像

転載元:IPA「デジタルスキル標準 ver.1.0」

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3. DX推進人材の必要性

DXを推進しようとする企業は、DXを通じて何をしたいのかというビジョンと、その推進に向けた戦略を描くことが前提となる。DX推進スキル標準(DSS-P)は、自社・組織に必要な人材を明確して、確保や育成の取り組み・に着手するために有効となる。

そこでDSS-Pでは、企業や組織のDXの推進において必要な人材のうち、主な人材を5タイプの「人材類型」として定義している。その人材類型とは、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティである。そして、それぞれの人材類型に、活躍する場面や役割の違いを想定した2~4種の「ロール」を定義している。

一人の人材が複数のロールを兼ねる、あるいは複数の人材で一つのロールを担うことも想定し、多様な企業・組織においてDXを推進する際の役割分担の違いに合わせた柔軟な使い方を可能にしている。各ロールに求められるスキルや知識を、全人材類型に共通する「共通スキルリスト」として大くくりに定義している。

共通スキルリストには、スキル項目に関連づく「学習項目例」を記載しており、DXの推進に必要な人材を育成するための教育・研修等と関連付けることを可能にした。DSS-Pでは詳細なレベル評価指標は設定していないが、最終的にはITSS+レベル4相当(独力で業務を遂行することが可能であり、後進人材の育成も可能なレベル)を想定している。

IPAでは、異なる人材類型同士の連携についても解説しており、企業トップの意向に対して連携しながら具体的な施策に落とし込んでいけるようになっている。それぞれの人材類型においてもセキュリティ意識とモラルは求められ、サイバーセキュリティ人材は業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材と定義している。

社員全員のセキュリティ意識やモラルは、DX推進に関係なく身につけるべき基本的な姿勢といえよう。これにより、リスクの高い行動に自ら気づき抑制できるようになる。DXの推進では未知の領域に踏み込んでいくことも多いため、デジタルスキル標準は重要な指針となるだろう。

DX推進スキル標準(DSS-P)における『5つの人材類型』

転載元:IPA「デジタルスキル標準 ver.1.0」

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