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1.階段といえば
階段といえばやはり1997年に建築された原広司設計の京都駅ビルだろう。
駅の改札を抜け左へエスカレータで上がるとそこに大階段がある。上の階への通路としてだけでなく、客席やベンチとしても使われている。階段は登り降りのための通路だけではないことがここに来るとよく分かる。
京都駅ビルの大階段
この京都駅ビルで階段はモニュメントでもある。鋼製階段が建物から突き出して空中に浮かび、駅のホームに立つ人々から「あれ、何だろう?」と視線を奪う。さらに建築として大事なのはその鋼製階段が美しいことだ。階段の美しさの秘密も後段で考えてみよう。
京都駅ビルの建物から突き出した階段
2.名称が大事
「ササラは200のチャンネルで、フミヅラは240でどうでしょう?」と打ち合わせで聞いて、「すみません図面にしてください」と答えていたのでは仕事が進まない。
建築用語を正確にマスターしておかないと異国の人との会話になってしまう。
- 「ササラ桁(ささらけた)」正しくは「側桁(がわけた)」と呼ぶが、階段の一段一段を支える両側の板だ。
- 「踏板(ふみいた)」足が踏む板、ステップのこと、段板ともいう。
- 「蹴込み板(けこみいた)」つま先側に立つ板のこと、必ず設けるとは限らない。
- 「段鼻(だんばな)」踏板の角、ノンスリップと呼ばれる滑り止めはここに付ける。
- 「踏面(ふみづら)」「蹴上げ(けあげ)」法律上の用語にもなっている階段の基本となる寸法。図を参照。
- 「蹴込み(けこみ)」踏板の奥行き-踏面=蹴込みという式で表される、段鼻より奥に入り込んだ踏板部分の寸法。
階段各部の名称
余談だが「蹴上げ(けあげ)」は英語で「RISE(ライズ)」という。ある建築の翻訳文で「屋根の蹴上げ」という一節があって、何かと思ったが原文は「roof rise」で屋根の棟の部分の軒からの高さのことだった。もちろん誤訳だが、英語ではどちらも「RISE(ライズ)」だから起きた間違いだ。
3.サイズと法律
階段の途中で「蹴上げ」寸法が変わっていたら、間違いなく人はつまずく。小学校の階段が急勾配だったら子どもたちは地震のときに避難できない。けが人が出る。
階段の寸法はそれほど大事なので法律でその最低寸法が決められている。
建築基準法施行令23条の規定によれば、階段の寸法は次の表のようになる。
建築基準法施行令23条による階段の寸法
この表の5にある住宅の階段の最低寸法、蹴上げ230、踏面150で階段を作図して、約25cmの足を描いてみるとこんなに急勾配になる。法律は最低基準というが、これは危ない階段だ。
最低寸法で作図した住宅の階段
階段の理想的な寸法の計算を助けてくれるツールも一部のCADアプリケーションに備えられている。図はRevitの例だ。使いやすい階段を表現するという次の式で蹴上の最大高さを逆算する。
蹴上げ×2 + 踏面 = 610~650
階段の理想的な寸法計算ツール
階段には手すりが付きものだが、手すりの設計には注意が必要だ。手すりに子どもが足をかけて転落することのないよう、子どもが利用する可能性のある手すりでは配慮が必要だ。たとえば「神戸市建築主事取扱要領」では図のように寸法とその測定位置が細かく決められている。
「神戸市建築主事取扱要領」より
子どもが利用する可能性のある建物で、筆者は「子どもの足がかりとなるベランダ手すりは危険」との指摘を確認機関からしていただき、図のように変更を求められた。考えればもっともなことで設計者として恥ずかしい限りだ。
手すり変更前(上)、手すり変更後(下)