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1 ほんまにできるか?
BIMを使えばいい設計ができると何度も書いてきた。そのためには「BIMを本気で使いこなす」ことが必要だ、というテーマのこの連載も最終回となった。
今回は「シミュレーション」を取り上げる。シミュレーションと言えば数年前まで専門家に依頼したり、大型コンピューターを使ったりしないとできなかったり、けっこう敷居の高いものだった。それが今はコンピューターのハードウェアとソフトウェアの進化により身近なものになってきた。建築の設計者自身が自分の机の上でシミュレーションを行い、その結果を設計に生かすことができるようになった。
前回は図のようなIESファイルを使った照明シミュレーションを例に、適切な照明器具と配置を、設計者が勘や照明器具メーカーの技術支援に頼らず、自分で検討する方法を紹介した。
今回は風=空気の流れと構造強度の検討シミュレーションを取り上げる。いずれも実務にすぐ応用できるように詳しく解説しよう。
IESファイルを使った照明シミュレーション
2 ArchiCADからRevitへ
建物の周りの風の流れを目で見て分かるようにするには、建物の3Dモデルが必要だ。ここではArchiCAD BIMガイドライン 企画設計編を使うことにする。企画設計編なので、詳細なモデルでないのが風の解析にはちょうどいい。
ArchiCAD BIMガイドライン 企画設計編
筆者はArchiCADの中で風の解析をするアプリケーションは持っていないので、BIMアプリケーションの間でデータの受け渡しに使われるIFCファイルを使って、別のBIMアプリケーションRevitにモデルを渡すことにする。筆者はRevitの中で動作する風の解析アプリケーションを持っているのでこれを紹介する。このようにアプリケーション間でIFCファイル形式を使ってデータをやりとりする機会が増えてきた。ArchiCADの[ファイル]メニューから[名前を付けて保存]でIFCファイルを指定して書き出す。特別な設定を行わない[一般的なトランスレータ]の設定で書き出した。
ArchiCADからIFCファイルに書き出し
3 RevitでIFCファイルを開く
企画設計用の比較的シンプルなモデルではあるが、IFCファイルを開くのには時間がかかる。Revitで読み込みに時間はかかったが図のようにきれいにモデルを開くことができた。
ざっと見た限り外観でのモデルの欠落はなさそうだ。このモデルを使って風の解析を進めよう。BIMアプリケーションArchiCADから別のBIMアプリケーションRevitに、このように大きなデータを情報を失うことなく渡すことができた。これは筆者のように構造設計者として意匠設計者からデータを受け取ったり、今回のテーマのようにシミュレーションをしたりする者にとってはとてもうれしいことだ。
RevitでIFCファイルを読み込み
4 屋上でバーベキューをするには
周辺の建物も入ったモデルなので図のように街区を対象にビル風の検討などもできるが、ここでは建物屋上での風速を調べることにする。 ここで取り上げたビルの低い方の棟の屋上でビヤガーデンかバーベキューレストランなどが営業予定だとして、なるべく強い風が吹かないようにしたいという施主からの要望があるとする。ビル単体で屋上の風速に絞った解析だ。
周辺建物を含むビル風の解析
5 Flow Designを使う
今回使用するアプリケーションはオートデスク社のFlow Designというアプリケーションだ。このFlow Designは単体でも動くアプリケーションだが、Revitの中で動かすこともできる。Revitの中でというのは、建物のモデルを変更してすぐ風のシミュレーション、また結果を建物モデルに反映することができるということだ。
筆者は全てのシミュレーションツールが、このようにBIMアプリケーションと切り離されずに動くべきだと思っている。
またFlow Designはインターネット接続していないと使えない。期間限定ライセンスの購入が可能で1ヶ月5,400円、1年間だと31,320円だそうだ(オートデスク社Webサイトより2015年3月6日現在)。
風洞実験用ソフトウェア Flow Design のWebサイト
6 風洞の大きさを設定する
筆者はいくつかのモデルでこのFlow Designを使ってみたが、その使い方に難しいこつはない。ただ引っ掛かりやすいのが風洞の大きさだ。前後左右ともモデルの2倍から4倍の十分な大きさに設定しておかないと、正しい結果にならない。
Revitにインストールされた[Flow Design]タブの[Setup]パネルから[Tunnel Size]ボタンで図のようにスライダーを動かして風洞のサイズを調整する。あまり大き過ぎると解析結果を得るのに時間がかかり、小さ過ぎると風洞の壁に当たった風の流れでじゃまされて正しい結果を得ることができない。
風洞の大きさを設定
7 風向と風速を設定する
「風向(Wind Direction)」と「基準風速(Wind Speed)」も図のようにグラフィカルなインターフェイスで設定する。ここでは建物の右方向からの風(90°方向)で基準風速を10m/secと設定してみた。
風向の設定
風速の設定
8 断面の方向と位置
風向や風速を変更している間も、Flow Designは計算を続けているので図のように風速が色で塗り分けられて表示される。この例では赤色部分が最大で風速14.6m/sec、青色部分が風速0m/secと表示されている。風洞のコーナーに色が示す風速の凡例が表示される。ちなみにこの凡例の大きさはビューの縮尺を変えることで変更することができる。
Flow Designによる風向きと風速のシミュレーション
ここでのテーマは屋上でバーベキューできるかだった。風と平行な鉛直の断面で検討してみよう。「断面の方向(Plane Orientation)」と「断面の位置(Plane Position)」もグラフィカルに指示できる。
断面の方向の設定
断面の位置の設定
9 解析結果を設計に生かす
設定は終わったので、ここからシミュレーションの本番だ。いくつかの風の方向で屋上フェンスのあるなしでの違いを比較してみよう。「プローブを追加(Add Probe)」で低層棟の屋上辺りに風速計をおいて風速も確認する。▲マークが風速計だ。何しろこの低層棟の屋上でバーベキューができるかどうかのシミュレーションだから、風速が大事だ。
結果の図を並べてみよう。左側が屋上フェンス「あり」、右側が屋上フェンス「なし」だ。
東風、フェンスあり
東風、フェンスなし
東風のとき、フェンスありの風速が1.1m/sec、フェンスなしで同じ位置で4.4m/secを示している。予想どおり東側のフェンスの風よけとしての効果は大きい。
西風、フェンスあり
西風、フェンスなし
西風のとき、フェンスありの風速が1.8m/sec、フェンスなしで同じ位置で1.9m/secを示し、フェンスの有無による変化はあまりない。ただし高層部の風下で風が落ち着くのでなく、低層部屋上は乱流域らしく風速が1~4m/secの間で常に変動する。高層部のフェンスの有無にはあまり関係なく、低層部屋上は意外に強い風が吹くかもしれない。
南風、フェンスあり
南風、フェンスなし
南風のとき、フェンスありの風速が0.7m/sec、フェンスなしは同じ位置で9.8m/secも示している。フェンスの効果が出ているということだが、南側に張り出した庇がもう少し風を切って、風よけの役割も果たすかと思っていたが、そうではなかった。
風よけとしてのフェンスの役割が確認できたところで、あとはこれを設計にどう生かすかだ。あまり高いフェンスは構造としての負担にもなるので設置したくない。穴あきフェンスの充実率や先端の形状で工夫できるかもしれない。いいフェンスを作るメーカーを探してみよう、と設計が進むことになる。