2017年10月

実務者のためのCAD読本

極めるBIM 5
BIM教育を極める…大学、専門学校でのBIM教育/全5回

建築系CAD 講師:鈴木裕二

1 実社会から建築教育への要望

実社会が求める建築教育と、実際に大学や専門学校で実施されている建築の教育がマッチしていないとの批判を耳にすることがある。

「米国の大学ではコンピューターを駆使した3次元でのデザインが主流になっている」
(…のに日本では2次元の製図教育が中心だ)

「学校でBIMを教えないから、入社してBIM教育に時間を割かないといけない」
(学校でBIMアプリケーションの使い方ぐらいは教えてほしい)

あるいは逆に「学校でCADやBIMアプリの使い方は教えなくていいから、建築をきちんと教えてほしい」
(コンピューターに頼ってばかりで、図面を描けない、読めない人材は要らない)

と状況は複雑だが、実社会の側が大学や専門学校での建築教育に満足していないようだ。

2 建築士試験と教育

大学や専門学校の建築専門課程を卒業すると建築士の受験資格を得られる。例えば大学では卒業後すぐ二級建築士、2年の実務経験で一級建築士の受験資格が得られる。専門学校では卒業後すぐ二級建築士、4年の実務経験で一級建築士の受験資格が得られることが一般的だ。

建築士法で建築士の受験資格が「国土交通大臣の指定する建築に関する科目を修めて卒業した者」として定められており、その詳細が告示などで決められている。大学や専門学校はこの受験資格のためのカリキュラムを組まざるを得ない。

例えば、一級建築士の場合は「建築設計製図」には7単位が必要であり、「住宅・建築物を主たる題材としているか。最終的に建築図面の作成に至っているか」と必要条件が明示されている。また、講義では「建築計画」7単位、「環境工学」2単位、「建築設備」2単位などと必要な単位が定められている。ここで1単位は15時間の講義、演習なのでそれぞれ「建築設計製図」「建築計画」はそれぞれ105時間の講義が必要ということになる。90分の授業を週1回、1年間では足りない時間数だ。

この「建築設計製図」や「建築計画」が建築士の受験資格取得に必要な時間となり、大学や専門学校では「CAD演習」などと名付けてCADやBIMアプリケーションを使っての講義となっている。演習科目として図面を作成する授業が外せないということになる。

BIMによる卒業設計(中央工学校OSAKA卒業設計 宮本佳奈さんの作品)

3 中央工学校OSAKAのBIM教育

本連載の「BIMを本気で使いこなす 第1回:BIM教育を考える」で筆者が非常勤講師として教えている専門学校、中央工学校OSAKAのBIM教育を取り上げた。

学校案内パンフレットの表紙に「建築の最新技術『BIM』を学び、建築業界の未来で活躍する!」とうたうほどBIMに熱心な専門学校だ。昼間部では一人一台のノートパソコンを使うことができ、4学科のうち3学科ではARCHICADを授業で使う。

同校の中島征治先生にBIMの効果についてお話を伺った。

「当初の目的はプレゼン教育の強化がねらいでしたが、導入効果はすぐに表れました。BIMソフトウェアのARCHICADを使えば学生でも簡単に3Dを立ち上げられたのです。アイデアをビジュアライズできるため、学生も建築を理解し、飽きずに課題に取り組むことができるようになったと思います。そういう意味でARCHICADは言わば『学生が頑張れるCAD』です。
それまでは手描きパースや建築模型を課題としていましたが、途中でうまく表現できず放り出してしまう学生もいました。ARCHICADを中心とする3D化への取り組みが進むにつれ、学生の学習への取り組み姿勢そのものが大きく変わっていきました。
特にデジタル時代の若い学生たちは、先輩たちが手描きで苦労した作図やパース作成も、BIMなら楽しく頑張れるようなのです。実際、最近は作図でも何でも積極的に取り組む学生が増えた実感があります」

飽きずに課題に取り組むことができることがBIMを教育に取り入れた成果というのはとても重要なことだろう。

中央工学校OSAKAの3学科において建築士受験資格となる「建築製図演習」では、ほぼARCHICADを使って図面を作成している。その課題の提出物は紙の図面だ。建築士試験は紙に手描きで行われる。コンピューターモデルを使った採点や指導は難しそうだ。何より質のいい紙の図面を作成するのは建築技術者の重要な職能の一つだと考えているのだろう。

BIMを本気で使いこなす 第1回:BIM教育を考える/全5回

中央工学校OSAKAの学校案内パンフレット

4 大阪工業大学空間デザイン学科のBIM教育

大阪工業大学には建築士受験資格の得られる学科として工学部の建築学科や都市デザイン工学科のほかに、ロボティクス&デザイン工学部の空間デザイン学科がある。

「ロボティクス&デザイン工学部は、技術とデザインを融合した新しい学びをとおして、新しい時代のものづくりと社会の発展を支える人材を育成します」

とホームページにあるユニークな学部だ。この学部にある空間デザイン学科で「CAD演習」として2年後期の15回、45時間、3単位の授業が行われている。建築士受験資格の「建築設計製図」に分類される授業だ。

ARCHICADで建物の外側や内側のモデルを作り、Rhinocerosと時にはGrasshopperも使って家具や小物を作り、Photoshopで外観や内観パースという授業を行う。ARCHICADは建築用のBIMソフトウェア、Photoshopは画像編集、Rhinocerosは汎用の3Dモデラー、GrasshopperはRhinocerosのプラグインのプログラミングツールだ。四つの最新のBIMアプリケーションを駆使する盛りだくさんのBIM授業だ。

筆者はユニークなカリキュラムだと思うのだが、このようなカリキュラムの意図について空間デザイン学科の福原和則教授に話を聞いた。

「私自身がゼネコンの設計部にいたこともあり、単に3DデザインツールとしてのBIMでなく、建築要素の情報をデータ化したBIMの重要性は理解しているつもりです。これからの建築設計のツールになるであろうBIMソフトウェアに学生のときから触れてほしいと、ARCHICADを使った授業を5年前にスタートしました。Rhinocerosは建築に限らず汎用的なデザインツールとして採用しています。
2年生の前半でAutoCAD、後半でBIMの授業を行いますが、学生はBIMに興味を持って、卒業設計でも半数ぐらいはARCHICADを使っています。コンペでもBIMを活用しています。昨年から今年にかけて空間デザイン学科の学生が国内外12の設計コンクールで、最優秀賞を含む賞を得ています。これもBIMを授業に取り入れた成果だと思います」

100台のワークステーションが並ぶ空間デザイン学科の教室
(左が教授の福原和則さん、右はARCHICADを担当する非常勤講師の新貴美子さん)

5 BIMでも建築教育の基本は変わらない

さらに大阪工業大学のロボティクス&デザイン工学部の空間デザイン学科の福原和則教授にBIMと教育について質問を続けた。

― 2Dの図面ではなく3DのBIMによる設計という方向に切り替えたのですか?

「いいえ、3Dで存在する建築を表現する2Dの図面を作成する力、それと紙の図面を読みこなして3Dのモデルを頭の中に作り上げる力、この二つが大事だと考えています。空間デザイン学科には建築だけでなくインテリアデザインやプロダクトデザインを学ぶ学生もいるのですが、1年生全員に建築製図を学ばせています。これは図面による表現、図面を読む力を学んでもらうのに建築製図が分かりやすいからです」

― 例えば窓の位置・高さなど3Dで設計すると設計手法そのものが変わりませんか?

「いいえ、あくまで平面図と断面図で窓の高さを決めなさいと紙の図面をチェックして指導しています。テーブルの高さが700なら、その横の窓の高さは? と指導します。部屋の内観の3Dを見ながら、この窓の高さをマウスで変えてみようという指導はしません」

― 逆にBIMをとり入れたことで建築教育に弊害はありませんか?

「かんたんに図面化されてしまうということは気になりました。窓やドアを製図記号として表現できていない図面を出してくる学生もいました。線の太さや線種の意味を理解して使い分けるということのできていない図面もありました。が、最近はそのようなこともなくなりました。ARCHICADについては、図面を作成するツールとしては期待せず、製図の課程できちんと建築を学ばせたいと思います」

― 建築士試験対策としての手描き図面教育は考えておられるのですか?

「全くそのようなことはありません。先に言ったように2Dの図面を読み書きする力とともに、スケッチする力が大事と考えて手描き図面を指導しています。院生が課題に取り組むときも手描きスケッチ、ARCHICADによるモデリングの両方を行っています。実践的に活躍できる設計者として、建築を設計する力を付けることが建築士試験にも役立つと思います」

ARCHICADとRhinocerosを使った設計を行う院生
手描き、模型、コンピューター内の3Dモデルが並行して使われる

6 BIMをもっと教育に使えないか

「建築設計製図」と「建築計画」の講義だけでBIMを使えばいいのだろうか? 筆者の知り合いの教員からもアイデアはたくさん出る。

「温熱変化と建物の外被性能でBIMを使ってシミュレーションしたら学生も飽きないのではないだろうか」

「法規の分野でも斜線規制や天空率でBIMを使って説明すれば分かりやすいのではないだろうか」

「構造モデルを作って、地震のときにどこが破壊するかというシミュレーションをBIMでできないだろうか」

だが、次に出る言葉は「教えることのできる教員がいない」「ソフトウェア、ハードウェアの予算がない」というないない話だ。

それでも筆者は中央工学校OSAKAの構造設計の講義で、多目的照明柱をARCHICADでデザインし、風圧力に対して検定を行い計算書に仕上げるという授業を行っている(下の写真)。数学が苦手な学生相手に興味を持ってもらうためにはBIMで形を見ながらというのが役に立っていると思う。

「建築設計製図」と「建築計画」の講義だけでBIMを終わらせず、コンピューターを使いこなす授業としてBIMを徹底的に利用することを実社会が求めていると筆者は思う。

一人一台のノートパソコンを使った構造設計の授業(中央工学校OSAKA)

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