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建築系CAD 講師:鈴木裕二

BIMを本気で使いこなす

第5回:BIMでシミュレーション/全5回

BIMを本気で使いこなす【5】 BIMでシミュレーション/全5回

1ほんまにできるか?

BIMを使えばいい設計ができると何度も書いてきた。そのためには「BIMを本気で使いこなす」ことが必要だ、というテーマのこの連載も最終回となった。

今回は「シミュレーション」を取り上げる。シミュレーションと言えば数年前まで専門家に依頼したり、大型コンピューターを使ったりしないとできなかったり、けっこう敷居の高いものだった。それが今はコンピューターのハードウェアとソフトウェアの進化により身近なものになってきた。建築の設計者自身が自分の机の上でシミュレーションを行い、その結果を設計に生かすことができるようになった。

前回は図のようなIESファイルを使った照明シミュレーションを例に、適切な照明器具と配置を、設計者が勘や照明器具メーカーの技術支援に頼らず、自分で検討する方法を紹介した。

今回は風=空気の流れと構造強度の検討シミュレーションを取り上げる。いずれも実務にすぐ応用できるように詳しく解説しよう。

IESファイルを使った照明シミュレーション

IESファイルを使った照明シミュレーション

2ArchiCADからRevitへ

建物の周りの風の流れを目で見て分かるようにするには、建物の3Dモデルが必要だ。ここではArchiCAD BIMガイドライン 企画設計編を使うことにする。企画設計編なので、詳細なモデルでないのが風の解析にはちょうどいい。

ArchiCAD BIMガイドライン 企画設計編
http://www.graphisoft.co.jp/download/BIMguideline/

筆者はArchiCADの中で風の解析をするアプリケーションは持っていないので、BIMアプリケーションの間でデータの受け渡しに使われるIFCファイルを使って、別のBIMアプリケーションRevitにモデルを渡すことにする。筆者はRevitの中で動作する風の解析アプリケーションを持っているのでこれを紹介する。このようにアプリケーション間でIFCファイル形式を使ってデータをやりとりする機会が増えてきた。ArchiCADの[ファイル]メニューから[名前を付けて保存]でIFCファイルを指定して書き出す。特別な設定を行わない[一般的なトランスレータ]の設定で書き出した。

ArchiCADからIFCファイルに書き出しをしている画面

ArchiCADからIFCファイルに書き出し

3RevitでIFCファイルを開く

企画設計用の比較的シンプルなモデルではあるが、IFCファイルを開くのには時間がかかる。Revitで読み込みに時間はかかったが図のようにきれいにモデルを開くことができた。

ざっと見た限り外観でのモデルの欠落はなさそうだ。このモデルを使って風の解析を進めよう。BIMアプリケーションArchiCADから別のBIMアプリケーションRevitに、このように大きなデータを情報を失うことなく渡すことができた。これは筆者のように構造設計者として意匠設計者からデータを受け取ったり、今回のテーマのようにシミュレーションをしたりする者にとってはとてもうれしいことだ。

RevitでIFCファイルの読み込みをしている画面

RevitでIFCファイルを読み込み

4屋上でバーベキューをするには

周辺の建物も入ったモデルなので図のように街区を対象にビル風の検討などもできるが、ここでは建物屋上での風速を調べることにする。 ここで取り上げたビルの低い方の棟の屋上でビヤガーデンかバーベキューレストランなどが営業予定だとして、なるべく強い風が吹かないようにしたいという施主からの要望があるとする。ビル単体で屋上の風速に絞った解析だ。

周辺建物を含むビル風の解析画像

周辺建物を含むビル風の解析

5Flow Designを使う

今回使用するアプリケーションはオートデスク社のFlow Designというアプリケーションだ。このFlow Designは単体でも動くアプリケーションだが、Revitの中で動かすこともできる。Revitの中でというのは、建物のモデルを変更してすぐ風のシミュレーション、また結果を建物モデルに反映することができるということだ。

筆者は全てのシミュレーションツールが、このようにBIMアプリケーションと切り離されずに動くべきだと思っている。

またFlow Designはインターネット接続していないと使えない。期間限定ライセンスの購入が可能で1ヶ月5,400円、1年間だと31,320円だそうだ(オートデスク社Webサイトより2015年3月6日現在)。

オートデスク社のFlow DesignのWebサイト

風洞実験用ソフトウェア Flow Design のWebサイト

オートデスク社Flow Design のWebサイト
http://www.autodesk.co.jp/products/simulation/features/flow-design

6風洞の大きさを設定する

筆者はいくつかのモデルでこのFlow Designを使ってみたが、その使い方に難しいこつはない。ただ引っ掛かりやすいのが風洞の大きさだ。前後左右ともモデルの2倍から4倍の十分な大きさに設定しておかないと、正しい結果にならない。

Revitにインストールされた[Flow Design]タブの[Setup]パネルから[Tunnel Size]ボタンで図のようにスライダーを動かして風洞のサイズを調整する。あまり大き過ぎると解析結果を得るのに時間がかかり、小さ過ぎると風洞の壁に当たった風の流れでじゃまされて正しい結果を得ることができない。

風洞の大きさを設定

風洞の大きさを設定

7風向と風速を設定する

「風向(Wind Direction)」と「基準風速(Wind Speed)」も図のようにグラフィカルなインターフェイスで設定する。ここでは建物の右方向からの風(90°方向)で基準風速を10m/secと設定してみた。

風向の設定

風向の設定

風速の設定

風速の設定

8断面の方向と位置

風向や風速を変更している間も、Flow Designは計算を続けているので図のように風速が色で塗り分けられて表示される。この例では赤色部分が最大で風速14.6m/sec、青色部分が風速0m/secと表示されている。風洞のコーナーに色が示す風速の凡例が表示される。ちなみにこの凡例の大きさはビューの縮尺を変えることで変更することができる。

Flow Designによる風向きと風速のシミュレーション

Flow Designによる風向きと風速のシミュレーション

ここでのテーマは屋上でバーベキューできるかだった。風と平行な鉛直の断面で検討してみよう。「断面の方向(Plane Orientation)」と「断面の位置(Plane Position)」もグラフィカルに指示できる。

断面の方向を設定している画面

断面の方向の設定

断面の位置を設定している画面

断面の位置の設定

9解析結果を設計に生かす

設定は終わったので、ここからシミュレーションの本番だ。いくつかの風の方向で屋上フェンスのあるなしでの違いを比較してみよう。「プローブを追加(Add Probe)」で低層棟の屋上辺りに風速計をおいて風速も確認する。▲マークが風速計だ。何しろこの低層棟の屋上でバーベキューができるかどうかのシミュレーションだから、風速が大事だ。

結果の図を並べてみよう。左側が屋上フェンス「あり」、右側が屋上フェンス「なし」だ。

フェンスありの東風シミュレーション画面

東風、フェンスあり

フェンスなしの東風シミュレーション画面

東風、フェンスなし

東風のとき、フェンスありの風速が1.1m/sec、フェンスなしで同じ位置で4.4m/secを示している。予想どおり東側のフェンスの風よけとしての効果は大きい。

フェンスありの西風シミュレーション画面

西風、フェンスあり

フェンスなしの西風シミュレーション画面

西風、フェンスなし

西風のとき、フェンスありの風速が1.8m/sec、フェンスなしで同じ位置で1.9m/secを示し、フェンスの有無による変化はあまりない。ただし高層部の風下で風が落ち着くのでなく、低層部屋上は乱流域らしく風速が1〜4m/secの間で常に変動する。高層部のフェンスの有無にはあまり関係なく、低層部屋上は意外に強い風が吹くかもしれない。

フェンスありの南風シミュレーション画面

南風、フェンスあり

フェンスなしの南風シミュレーション画面

南風、フェンスなし

南風のとき、フェンスありの風速が0.7m/sec、フェンスなしは同じ位置で9.8m/secも示している。フェンスの効果が出ているということだが、南側に張り出した庇がもう少し風を切って、風よけの役割も果たすかと思っていたが、そうではなかった。

風よけとしてのフェンスの役割が確認できたところで、あとはこれを設計にどう生かすかだ。あまり高いフェンスは構造としての負担にもなるので設置したくない。穴あきフェンスの充実率や先端の形状で工夫できるかもしれない。いいフェンスを作るメーカーを探してみよう、と設計が進むことになる。

10構造解析を始めよう

構造検討をしながら設計モデルを作成したい。ここでもRevitを使うが、あらかじめオートデスク社が無償で配布している構造解析用のツールをインストールしておかないといけない。下記のAutodesk ExchangeのWebサイトからStructural Analysis Toolkitをダウンロードしてインストールする。インストールすると図のような[構造解析]ボタンが使えるようになる。

Autodesk ExchangeのWebサイト画面

Autodesk ExchangeのWebサイト

オートデスク社Autodesk ExchangeのWebサイト
https://apps.exchange.autodesk.com/

Structural Analysis Toolkitで使えるようになるボタン

Structural Analysis Toolkitで使えるようになるボタン

11構造モデル

ここで構造強度検討に使うモデルは下図である。2階建てのエレベーター棟だ。簡単なモデルだが、設計者は過去の経験から、これぐらいかなと断面を決めてモデルを作成する。その断面が本当に安全か、どれくらい安全か確認するという作業を行うことにしよう。

ここではSS3などの構造設計一貫ソフトウェアとRevitを連携させようというのではない。それはそれで専用のツールが用意されている。意匠設計者や構造の専門でない設計者が、簡単にRevitの中で強度検討してデザインに生かせるツールとして使おうというのが目的だ。

構造強度検討に使うモデルを表示した画面

構造強度検討に使うモデル

12解析モデル

構造モデルとして検討するためには、きちんとした入力が行われている必要がある。柱と梁が離れていたり、荷重が設定されていなかったりしたのでは解析することはできない。

Revitで3Dビューの[解析モデル]表示に切り替えると、図のような構造解析用のモデルが表示される。ここでは自重のほかに2階とR階に積載荷重、2階に地震荷重として9kNを2カ所、R階に6kNを2カ所作用させた。柱脚は固定とした。

荷重も支点の設定も、断面も材料の設定もRevitの中でモデルを見ながら行うことができる。

[解析モデル]表示画面

[解析モデル]表示

13クラウドで解析実行

「10 構造解析を始めよう」で紹介した[Cloudで解析]ボタンで解析を実行する。計算は自分のコンピューターで行われるのでない。クラウド、つまりどこかにある大型コンピューターで行われる。インターネット経由のデータの送受信と表示にのみ自分のコンピューターが使われる。

データの送信が終わると、図のようなダイアログボックスが表示される。解析は無料ではない。「クラウドクレジット」で支払うことになる。ここでは「必要なクラウド資格情報:2」とダイアログボックスに表示されている。この計算で2クラウドクレジットが消費されるということだ。サブスクリプションユーザーには年間100クラウドクレジットが無償で与えられている。

[Cloudで解析]ウィンドウ表示画面

[Cloudで解析]ウィンドウ

[解析を開始]ボタンでクラウドによる計算が始まる。計算が終わると図のようにコンピューターの通知領域にバルーン表示され、結果をWeb上で見たり、Revitの画面でグラフィカルに表示させたりできる。このモデルの場合1分ほどで結果が返ってきた。

解析の完了を知らせる画面

解析の完了を知らせる画面

14解析結果のレポートを見る

ブラウザーに表示された結果のレポートの一部を図に表示した。地震時の柱に作用する軸力が36.3kN、曲げモーメントが21.2kNmと読み取れる。

ブラウザーに表示された解析結果の一部表示画面

ブラウザーに表示された解析結果の一部

15解析結果をRevitで表示する

さらにRevitの画面3Dビューでグラフィカルに結果を見ることもできる。図のようなダイアログボックスで表示させたい応力や方向をチェックして、[適用]ボタンを押すだけだ。図は軸力と曲げモーメントを表示させたものだ。図を見る限り正しそうな結果にはなっている。

解析結果を3Dビューで表示した画面

解析結果を3Dビューで表示

応力が得られたので、次は現在の断面が十分かどうか応力度の計算だ。応力度を次のような式で計算、チェックする。残念ながらこの部分は電卓やExcelの出番となる。

応力度の計算式

Revitから全く離れずに構造強度の検討ができる過程を説明した。

BIMという舞台でシミュレーションを使いこなせば万能の設計者として仕事ができるのではないだろうか?

ぜひ読者の皆さんも挑戦を。

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