2012年10月 1日公開

実務者のためのCAD読本

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施工を考える【「おさまり」のいい図面 ~鍵はBIM×二次元CADの相互理解~/第5回:「工」】

建築系CAD 講師:鈴木 裕二

  • CAD

シリーズ記事

1.コンピュータの中で建物を建てる

施工を考える。実際に建物を建てる施工のことだ。

実際に施工する前にコンピュータの中で建物のモデルを作ろうというのがBIMだ。コンピュータの中で建てるので、現場で建てて初めて見つかるような問題点を、あらかじめ見つけて対処できる。これがBIMによるフロントローディングだ。

ただそのためにはコンピュータの中にちゃんとした建物モデルを作らなければいけない。
「だいたい」のモデルでは、見つかるはずの問題点も見つからない。「ちゃんとした」モデルを作る必要がある。

例えばトイレの便器と配管が予定のスペースにおさまるかは、便器の種類も排水管の位置もきちんとモデル化しておかないと分からない。「便器の種類はあとで施主に決めてもらおう」ではフロントローディングにはならない。

鉄骨の継手の位置を決めておかないと、現場で電動工具を使って締め付けができるかチェックできない。継手位置と仕上げや設備配管の関係もモデル化しておく。

つまり本気でフロントローディングするなら、かなり詳細なモデルをコンピュータの中に作らなければいけないということだ。
ところがそのためにはいくつか克服すべき問題点がある。

第1はコンピュータとソフトウェアの能力の問題だ。大きなビルディングを限りなく細部まで入力してサクサク動くとは限らない。下の図はBIMアプリケーションでは難しい神社のモデリングだ。BIMアプリケーションではなくAutoCADではソリッドモデリングとしてうまくいく。

第2は仕事の流れの問題だ。設計者がモデリングしている時点では施工者が決まっていないのが普通だ。そのために施工を考えたモデリングができない。さらに現在の設計者の業務範囲ではBIMモデルを作るために増えた工数の費用は請求しにくい。

第3はBIMアプリケーションを使う人間の能力の問題だ。施工用のBIMモデルを作るには施工についての広くかつ深い知識が必要だ。

ただしこの第3の問題点は果たして克服しなければいけない問題なのかという指摘もある。つまり設計者は施工のことをそんなに知らなくても、あくまでデザイナーでいいじゃないかという意見だ。これについてはあとで考えることにしよう。

とにかくこれら三つの問題を克服さえすれば施工用のBIMモデルを作ることができる。現状はどのあたりまでできているのか、見てみよう。

図1 AutoCADで神社の3Dモデリング(静岡市御穂神社本殿保存修理工事)

2.施工のための平面詳細図

下の図2はRevitで作成したスチールハウスの「平面図」と、それを元にAutoCADで作成した「平面詳細図」だ。平面詳細図のほうは縮尺を変えて大きく表現しているだけではない。施主や施工者と打ち合わせの結果決まった情報がそこには記載されている。各設備機器の詳細形状、窓とドア枠のおさまりなどが記載されている。

このように施工に必要な情報が記載された平面図が施工で使う平面詳細図だ。下の図面には表現されていないが構造図ではスタッド(柱)の割付が決まっており、設備との干渉がないようにチェックされている。天井の照明の位置も別の設備図で決められている。CADなのでそのような意匠、構造、設備の平面図を重ねあわせてチェックもできる。

ただしこの時点で記載されない情報もある。例えば壁に貼る石こうボードはいくらのサイズのものを使い、どこに目地(継目)が出るのか記載されていない。それは現場で決めてくださいということになる。この時点でボードの割り付けは設計者の仕事ではない。

さてBIM・・・これからはBIMだ、ということでこの平面詳細図に表現されている情報をすべてRevitモデルで表現しなければいけないのだろうか?
あるいはボードの割り付けもBIMモデルに入力するのか?Revitで標準では用意されていない設備機器の3Dモデルを作成したり、構造部材のおさまりを3Dでモデリングしたりするのか?

実のところ筆者にもよく分からない。RevitでのBIMモデリングはこの程度にしておいて、あとは2次元のAutoCADでいいかとも思う。BIMモデルと2D施工図面の役割分担の境界線をどこに引けばいいかで迷っている。

図2-1 Revitでの「平面図」ビュー

図2-2 AutoCADで作図した「平面詳細図」

3.施工のためのコンクリート躯体図

鉄筋コンクリートで建物を作るとき、どうやってコンクリートの柱や壁のサイズを決めているのだろう?

構造の設計者が決めるのは最低限の基準となるサイズだ。構造計算の結果500×500とした柱が550×500と50mm大きくなってもかまわない。もちろん建物の強度には影響しない。

コンクリート躯体のサイズは「躯体図」と呼ばれるコンクリートの施工図によって決められる。ほとんどの場合、施工図は専門の業者によって作成される。タイルの割り付けや最終的な仕上げの形状から、外形として柱の大きさが決められ、その内側に入るコンクリート柱の大きさが決まる。

そのために場所によって設計寸法より柱の大きさを大きくしなければいけない。柱を大きくすると、それに合わせて壁厚も大きくしなければいけなくなる。それをコンクリートの「増し打ち」という。

ところがこの「増し打ち」をBIMアプリケーションで実現するのはなかなか面倒なのだ。C5という符号(タイプ名)のついた柱は500×500と決まっている。そこに2階から3階にかけて北側の面だけ50mm増し打ちするとC5という名前(タイプ)ではなくなる。
BIMアプリケーションによるコンクリート施工モデルはできないことはないが、手間がかかり面倒なのだ。

当面2次元CADはコンクリート躯体図の分野でその主役の地位から降りられないだろう。

図3 Revitで作成した柱の増し打ちモデル

4.施工のための鉄骨工作図

図4のようにRevitで鉄骨モデルを作成し、H形鋼の継手を配置した。

これで鉄骨の施工、梁の製作ができるかというとそれは無理だ。大梁と小梁の取り合いがまだできていないのはもちろんだが、この梁には設備用のスリーブ孔があくかもしれない。

建方のための手すりや足場を取り付ける金物ピースも必要だ。このRevitモデルは構造設計者が使うモデルで、施工者や鉄骨製作工場(ファブリケータ)が使えるモデルではない。

図4 Revitで作成した鉄骨モデル

ここで使用したH形鋼の標準継手は筆者のホームページからダウンロードできる。

アド設計(筆者のホームページ)

鉄骨の業界では鉄骨の工作図を、鉄骨製作工場が2次元の図面としてCADで作図しているのが大多数の現状だ。できあがった紙の図面はゼネコンに渡され、そこでチェック承認されるとともに施工用のピースや、設備図面と突き合わせて必要な追記がされる。いずれも紙の世界だ。

最近この鉄骨製作工程に3次元のモデル、3次元工作図というべきモデルが導入されつつあるそうだが、残念ながら筆者にはまだ使うチャンスがない。3Dモデルを使った鉄骨の製作が工場で進めば、その上流の構造設計や意匠設計にも一気にさかのぼって影響するのではないかと期待している。

同じ鋼構造でも橋梁の分野ではこの手の3D設計は少し進んでいると聞いている。

いずれにしても鉄骨製作用の3次元のモデルを設計者は入力していない。2次元でも3次元でも鉄骨製作のノウハウは工場にある。鉄骨モデリングのノウハウも工場にある。これからは設計者は鉄骨製作工場のノウハウを取り入れ、工場と協力して施工で使える鉄骨モデルを作るようになるだろう。

それまでは2次元の紙の工作図だ。それでもBIMを使った2D工作図の作成は少し手法が違う。BIMをモデルの平面と断面をビューとして切り出した図面(DWGファイル)を下書きとして、工作図を作図できる。ガセットプレートや取り付け金物の詳細を追記するだけで工作図ができあがる。
この方法なら統一されたBIMモデルを使っているので、大きなところでの間違いは回避できる。下の図5はRevitで鉄骨モデルの一部をビューとして切り出し、一つのシートにまとめたものだ。図6はそのRevitシートをAutoCADのDWGファイルに書き出し、断面図や寸法を追記したものだ。これが工作図になる。

図5 Revitで工作図

図6 AutoCADで工作図