2017年11月

実務者のためのCAD読本

世界で戦えるGLOBALエンジニアになるための製図技術
7th STEP 第5回: ゼロ幾何公差方式とデータムの浮動/全5回

機械系CAD 講師:山田学

前回は、最大実体公差を検査する機能ゲージについて学習した。今回は、幾何公差の値にゼロを記入する「ゼロ幾何公差方式」と、データムに最大実体公差を適用する「データムの浮動」について説明する。

1 ゼロ幾何公差方式

前回までの解説によって、最大実体公差とは、サイズのばらつき具合によって、組み立てにマージンがあるときに限り幾何公差を広げることができ、不良率が下がることで部品のコストダウンにつなげるテクニックであることを理解した。
実は、さらにコストダウンを図ることができる「ゼロ幾何公差方式」が存在する。
しかし、幾何公差の数値をゼロにするだけでは、「一切の幾何偏差の崩れを許さない」という意味になり、加工するうえで現実的ではない。

そこで、幾何公差値のゼロに続けて○Mを記入することで、最大実体状態のときに限り幾何偏差ゼロを要求し、最大実体状態でないときにはその差分に応じて幾何偏差の崩れを許すものがゼロ幾何公差方式である(図1)。

図1:ゼロ幾何公差方式の指示例

最大実体公差を同軸度に適用した図面を、ゼロ幾何公差方式に変更してみよう(図2)。

図2:同軸度の図面例

図2 b)を見ればわかるように、ゼロ幾何公差方式を適用する場合、幾何公差値をゼロにするだけではいけない。合わせてサイズ公差値も変更する必要がある。
サイズ公差値の変更については、動的公差線図を見れば理解できると思われる。
ゼロ幾何公差方式によって増やしたサイズ公差の領域を示すと、次の赤い領域になる(図3)。
つまり、幾何公差は厳しくする代わりに、サイズ公差の範囲を広げるものである。

図3:ゼロ幾何公差方式を適用した同軸度の動的公差線図

同様に、最大実体公差を位置度に適用した図面をゼロ幾何公差方式変更にしてみよう(図4)。

図4:位置度の図面例

ゼロ幾何公差方式によって増やしたサイズ公差の領域を示すと、次の赤い領域になる(図5)。

図5:ゼロ幾何公差方式を適用した位置度の動的公差線図

以上のことから、同軸度でも位置度でも考え方や図面指示に違いがないことが分かったことと思う。
2部品のサイズ公差を図示サイズ(基準となるサイズ)から始まるように設定し直したうえで、幾何公差値のゼロに続けて○Mを記入すればよいのである。

ゼロ幾何公差方式は、おおげさで使いづらいと思うかもしれない。
しかし、真直度の例を挙げると、ゼロ幾何公差方式は「包絡の条件」と全く同じ意味となることが分かり、特に難しいテクニックではないということを認識しよう(図6)。

図6:ゼロ幾何公差方式と包絡の条件の関係(真直度の例)

2 データムの浮動

最大実体公差方式は、「二つのフランジのボルト穴とそれらを締め付けるボルトとのように、部品の組立は、互いにはめ合わされる形体の実寸法と実際の幾何偏差との間の関係に依存する。はまり合う部品の実寸法が両許容限界寸法内で、それらの最大実体寸法にない場合には、指示した幾何公差を増加させても組み立てに支障をきたすことはない」 と定義される。

上記は、幾何特性を与える対象部についての記述であるが、「2部品がはめ合わせることができればよい」という条件であれば、データムがサイズ形体である場合にデータムに最大実体公差方式を適用できるのである。データムに○Mを指示することは、データムを「拘束」することから「浮動」させることを意味する(図7)。

図7:データムに最大実体公差を適用したときの指示例

それでは、データムの「拘束」と「浮動」でどのような違いがあるかを確認しよう。
まずは、データムに最大実体公差を適用しない部品の図面例を確認しよう(図8)。

図8:データムに最大実体公差を適用しないときの指示例

上記の部品を、ゲージを使って検査する場合を考えてみよう。
データムに最大実体公差を適用しない場合、データムサイズのばらつきに関係なく、データムを拘束して検査を実施される。下記の図例では、テーパー形状の治具を穴の両端で挟み込むことで、データムの中心線を拘束した例である(図9)。

図9:データムに最大実体公差を適用しないときの検査治具の例

次にデータムに最大実体公差を適用された部品の図面例を確認しよう。
位置度で参照しているデータムは、データムAとデータムBの二つがある。このとき、データムAは表面形体であるため、最大実体公差方式は適用できない。

今回の例では、サイズ形体であるデータムBにのみ○Mの記号を付けることができる(図10)。

図10:データムに最大実体公差を適用したときの指示例

データムに最大実体公差を適用した場合、データム側のゲージは拘束する構造ではなく、直径を最大実体寸法の「φ30.00」で製作することになる。
穴が最大実体状態でない場合にゲージと穴の間にすきまができるため、そのすきま分データムのゲージが浮動することで、検査対象部が合格になる可能性が出るのである(図11)。

図11:データムに最大実体公差を適用したときの検査治具の例

コストダウンを目的とした「ゼロ幾何公差方式」と「データムの浮動」を理解することができたと思う。
幾何公差を指示すると加工の段取りを考慮し丁寧に加工しなければならず、検査工程も増えることから部品単価のコストアップは避けられない。そのため、組めればよいという部品に対して、少しでも不良率を下げ、コストダウンを図る手段の「ゼロ幾何公差方式」と「データムの浮動」は、今後、積極的に使うべきテクニックである。

以上で、「世界で戦えるGLOBALエンジニアになるための製図技術 7th STEP <全5回>」を完結する。

監修・執筆

山田学

ラブノーツ代表取締役、技術士(機械部門)。設計製図の企業内教育を種に活動。著書に『図面って、どない描くねん!』『めっちゃメカメカ!リンク機構99→∞』(共に日刊工業新聞社刊)など。

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