2014年 7月 1日公開

【連載終了】実務者のためのCAD読本

【アーカイブ記事】以下の内容は公開日時点のものです。
最新の情報とは異なる可能性がありますのでご注意ください。

投影図と寸法線以外の情報にも注意を払おう【世界で戦えるGLOBALエンジニアになるための製図技術 3rd STEP/第5回】

機械系CAD 講師:山田学

シリーズ記事

【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介

5 投影図と寸法線以外の情報にも注意を払おう

前回までに、軸を固定する治具(じぐ)の四つの構成部品について、作図を行った。
図面は「投影図に寸法を記入するもの」ではない。図面には、投影図と寸法線以外にも、重要な情報が示されている。
その情報とは、表題欄に記入される部品名称や材質、表面処理である。

前回までに描いたそれぞれの構成部品は、どのように考えて材質と表面処理を選べばよいだろうか。

  • * 材質や処理などの選定は設計形状と同じように正答はなく、設計者が属する業界や経験、理屈で変わるため、以降解説する内容は一つの考え方であることをご理解いただきたい。

軸を固定する治具の組立図から、製品仕様を想定してみよう。

あらためて、軸を固定する治具(じぐ)の組立図を確認しておく(画像1、2)。

画像1

軸を固定する治具の組立図

画像2

治具とVブロック

1…Vブロック
2…ハウジング
3…締め付けボルト
4…ハンドル

構造から考えられる仕様例を列記する。(仮想スペック)

  • 社内の工程で、計測のために丸軸を固定するための治具である。
  • 固定される軸の直径や材質は一定ではない。
  • 固定される軸の硬さに合わせて、使用者が締め付けボルトの締め付け力を加減する。
  • 工場内で使用され多少の油がつく環境だが、錆(さび)がひどくならない程度の防錆(ぼうせい)処理はあるに越したことはない。

図面には必ず表題欄がある。表題欄は、世界的にフォーマットが決まっているわけではないので、企業ごとに欄内のレイアウトや項目が異なっている。一例を下記に示す。(画像3)

画像3

図面の表題欄

1 Vブロック(画像4)

【部品名称】

一般的にV溝を主として構成する塊はVブロックと呼ばれることが多い。その他の名称候補としては、「軸置台」「軸固定台」「基準ブロック」などさまざまな名称が考えられる。

【材質】

加工基準や計測基準として用いられる一般的なVブロックは、JIS(日本工業規格)に、その形状や材質が規定されている。
JISが規定する材質を参考にすると、候補として次の2種類がある。

  • SK105と同等かそれ以上の鋼製
  • FC200と同等かそれ以上の鋳鉄製

一般的な知識から単純に両者の違いを確認すると、次のようになる。

  • SK105…高炭素鋼であるため、焼入れを前提とし、硬さを要求する場合に選択する。コストは高くなりそうである。
  • FC200…鋳鉄なので炭素量が多い分、摺動(しゅうどう)性が良く定盤などにも用いられる。切削性が良く、焼入れしなくても使えるため、コストは安くなりそうである。

今回は、傷などの発生を抑えるために表面の硬度を上げたいという理由をつけてSK105とする。

【処理】

ここで、SK105は炭素を約1.05%含有する合金鋼であり、素材のままで使うことはなく、熱処理をして硬度を与える必要がある。そこで、焼入れ焼き戻しを注記として指示する。熱処理する場合は、目標とする硬度を書く必要があり、JIS規格と同じ「HRC58以上」を注記として追記する。焼入れによる硬度は炭素量に比例し、その炭素量から得られる目安の硬度が決まっている。

防錆のためにめっき処理をしてもよいが、焼入れによって表面に酸化被膜が発生することで錆にくい状態となっており、工場内での使用であることから表面に防錆油を塗布する程度とする。これも注記として指示しておくとよい。(画像5)

画像4

治具とVブロック

画像5

Vブロックの表題欄記入例