2014年12月 1日公開

実務者のためのCAD読本

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BIMで改修設計をやってみた(1)【BIMを本気で使いこなす/第3回】

建築系CAD 講師:鈴木裕二

シリーズ記事

1 BIMを使えばもうかる?

工務店のおやじはなかなか厳しい。

「BIMを使ったらもうかるか? 軽トラとどっちが役に立つ?」

と聞かれてしまった。軽トラック1台の値段が、たぶんハードウェアを含むBIMアプリケーションと同じぐらいだろう。経営者の厳しい判断としては悩むところだろう。筆者も「もちろん、もうかります」と自信を持って答えたいところなのだが、そんな自信はない。

そこで今回は実例を見てもらい、読者に判断を委ねてみたい。「BIMでそこまでできるのか」なのか「BIMと言ってもそれくらいしかできないのか」、判断は分かれると思う。取り上げるのは、筆者の所属する設計事務所BIM LABOで進行中の保育所改修設計だ。今回と次回の2回にわたり丁寧にレポートする。
BIMが使えると、こんなに仕事が進むと実証できればいいのだが。

BIMとトラックとを比較しているイラスト

工務店の経営者にとって、BIMとトラック、どちらが役に立つだろうか。

2 BIMでやりたいこと

この保育所のリフォームはちょっとややこしい。躯体以外の、設備を含む内部の全面改修やエレベーターの増築を、保育所を運営しながら行う。そのため改修工事期間の約半年は別の場所で仮設保育所を運営する。この仮設保育所は共同住宅1階の車庫を、用途変更手続きをし、改修工事を行って保育所として使用する。行政との打ち合わせなどでも手間がかかり、作成する書類の量も多くなる、そういう意味でちょっとややこしい物件だ。
さてBIMを使えば設計が合理化できるはずだ。現時点でどれくらい合理化できているかの評価を〇×で行い、一覧表にまとめてみた。

設計工程評価コメント
3Dモデルで打ち合わせ施主や保護者との打ち合わせは3Dモデルで行っている。とても評判がいい。◎だ。
BIMから確認申請図面仕様書などの文字中心の図面を含めて図面はArchiCADで作られている。ただ設備の図面は2次元のCADで作られた図面をArchiCADのレイアウトに貼り付けただけだ。評価は〇だ。
BIMからの書類作成×建築や都市計画担当と保育担当の行政に提出する書類もたくさんある。添付図面はBIMで作成するが、残念ながらそのような書類そのものをBIMで作成することはできない。評価は×だ。
設備との干渉チェック設備設計は2次元のCADで行った。それでも干渉のチェックぐらいはBIMでやりたい。BIMで設備モデルを入れなおすというあまりスマートでない手順になるが、これからの作業なので△としておく。
点群測量で実測×既設の共同住宅1階の車庫を改修して仮設の保育所とするので、設備配管を含めた正確な実測が必要だ。できれば格好良く点群測量でやりたかったが、できなかった。×だ。
照明、換気シミュレーション前面道路より低くなった車庫の保育室への改修、照明や換気のシミュレーションはぜひやっておきたい。これからの作業なので△としておく。
積算と実施設計積算と実施設計図、これもこれからの課題だ。次回のこの記事で詳しく報告できると思うが今のところ△だ。

改装前の車庫の画像

車庫を改修して仮設の保育所とする

改修後の室内パース

改修後の室内パース

3 3Dモデルで打ち合わせ

保育所でトイレはとても大事だ。子どもたちにトイレを好きになってほしい。もちろん特に清潔が要求される場所でもある。現在のトイレはタイルの上にすのこを置くという、いかにも古いタイプのトイレ床だ。これを廊下からのフローリングの連続という床に変えていく。掃除の仕方やメンテナンスについて職員と話し合いをした。また保育士の目が届くかのチェックも何度も行う。

おむつの扱いについて現在進行形で打ち合わせが進んでいる。紙おむつではなく布おむつの使用を前提に、トイレに棚を作りそこに一人ひとりのバケツを置いて使用済みのおむつを入れて保護者に持って帰ってもらうということは決まった。このバケツの大きさでいいか? ふたを棚の上で開くことができるか? 棚の数は? 職員室にプロジェクターを持ち込んで、ArchiCADを操作しながら議論が進んでいる。
平面図で見るのでなく3次元で見るので分かりやすい。その場で棚の位置を変更してアイデアを形として確認できる。BIMの大きなメリットだ。

ArchiCADで表示した、幼児用トイレのシミュレーション画面

トイレの機器、棚の配置を検討

4 図面を出す、書類を作る

現在の設計作業は仮設保育所の建築確認申請中という段階だ。全体の設計工程の中で、時間にして半分くらい来たところだろうか。

BIMを使っているのだから3Dモデルをちゃんと作れば図面は簡単に作れる。たしかにそのとおりだ。大量の図面もそんなに時間をかけずに作ることができる。もちろん注記や寸法などを、それぞれの図面に書き込む手間は、BIMでも無くなりはしない。
次のArchiCAD「ナビゲータ - レイアウトブック」のウィンドウを見ていただきたい。確認申請図のうち意匠図25枚がArchiCADの中で作られている。大きな設計変更があれば25枚の意匠図は連動して変わる。図面間の食い違いは起きない。

一方、設備設計図22枚はArchiCADの中に置かれているが、作成は残念ながら他の2次元CADで行った。そのために変更・修正があればその2次元CADで作業して、その結果を貼り付けなければいけない。「BIMじゃない」状態だ。

ArchiCADで表示した、ナビゲータ - レイアウトブックウィンドウの画面

確認申請図のうち意匠図25枚がArchiCADの中で作られている