この連載について
「BIMによる設計のコストを考える」と「世界のBIM日本のBIM」という大げさなテーマは今回のシリーズでまだ残っているのだが、この二つのテーマを深掘りするのは筆者には難しいということに気がついた。より身近な「BIMで省エネ」を取り上げることにする。
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1.BIMだからこその省エネ計算
今回もRevitとARCHICADという代表的なBIMアプリケーションを取り上げる。どちらも建物のエネルギー消費を解析するツールが備わっている。Revitでは「解析」タブに「エネルギー最適化」パネルや「冷暖房負荷」ボタンがあり、ARCHICADには「デザイン」メニューに「エネルギー評価」メニューがある。どちらも建物の特定の建設地でのエネルギー年間消費をシミュレーションする素晴らしいツールだが、ここでは専門的すぎるこれらのツールは取り上げない。いやこれらのツールの入り口だけを少し使って住宅の省エネを考えてみたい。
住宅設計で発注者にプレゼンテーションする企画設計の段階で、簡単に誰でも使えてある程度の結果をすぐつかめるツールが欲しい。窓の大きさを少し変えれば、ひさしの出を短くすれば、窓ガラスをトリプルにすれば、断熱材を厚くすれば……。省エネにどう影響するのか設計者として常につかんでおきたい。ここではそんな省エネシミュレーションをやってみよう。ほかにも住宅設計と省エネについてBIMを使って実現できることを紹介する。
Revitの「エネルギー最適化」ツール
Revitによるエネルギー分析の結果
ARCHICADによるエネルギー性能評価
ARCHICADによるエネルギー性能評価の結果
2.平成28年度省エネ基準で計算する
建築物の省エネの最低基準を決めようという「建築物省エネ法」が制定されていて、『平成28年度省エネ基準』がその判断基準に使われている。
住宅についていえば、冬には暖房しても窓や壁からどんどん熱が逃げていくことのないように、夏には室内で冷房しても太陽光で壁が熱くなったり、窓からの日が入ってクーラーがちっとも効かなかったりというようなことがないようにする。その度合いを計算する方法が『平成28年度省エネ基準』で決められている。ここでは後者、夏の「室内で冷房しても太陽光で壁が熱くなったり、窓からの日射でクーラーがちっとも効かなかったり」しないことを確認する計算を、BIMアプリケーションを使ってやってみよう。
計算なので数式があり、その数式に入力する値がある。最終結果は冷房期の平均日射熱取得率、ηA(イータエー)と呼ばれる値だ。この値が東京や大阪なら2.8以下、鹿児島なら2.7以下で合格となる。
今回はテーマとして次図のような平屋建ての木造住宅を取り上げる、建物は南北の線から30度回転した方向に立っている。
冷房期の平均日射熱取得率ηA(イータエー)を求めるのに必要なのは以下の値だ。
U[W/ (m2・K) ] | 屋根、壁、窓の熱貫流率 ※ |
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A[m2] | 屋根、壁、窓の面積 ※ |
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fc | 窓の取得日射量補正係数 |
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νC | ニューシー、壁、窓の方位係数 |
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上記のうち※印を付けたUとAはBIMアプリケーションから求めることができる。
テーマとする木造住宅(BIM LABO新貴 美子さん設計、ARCHICADで表示)
3.Uを求める
ARCHICADで「デザイン」メニュー→「エネルギー評価」→「エネルギーモデル再検討」を選択し、図の「エネルギーモデル再検討・構造」ダイアログボックスを表示する。ここで例えば図の壁を選択すると、ダイアログボックスの下の方に計算されたU値「0.39W / m2K」が表示され、このU値欄のボタンをクリックすると、壁のU値の計算根拠が「U値計算機能」ダイアログボックスで表示される。熱伝導率などの物性が分かっている材料ならば、ここでその値を変更することもできる。
ARCHICADで「エネルギーモデル再検討・構造」ダイアログボックスを表示
「U値計算機能」ダイアログボックス
4.Aを求める
壁から窓などの開口部を除いた外皮面積も「エネルギーモデル再検討・構造」ダイアログボックスに表示されている。窓の面積は同じ「エネルギーモデル再検討・構造」ダイアログボックスの「開口部」タブで図のようにガラス部とそれ以外の面積に分けて表示される。
窓の面積を詳細表示
さらに窓の行を選択して表示されるボタンをクリックして表示される「開口部カタログ」でガラスの詳細を選ぶことができ、ガラスのU値も設定することができる。
「開口部カタログ」でガラスを設定