2018年 8月

実務者のためのCAD読本

深掘りBIM 5 BIMで省エネ/全5回

建築系CAD 講師:鈴木裕二

「BIMによる設計のコストを考える」と「世界のBIM日本のBIM」という大げさなテーマは今回のシリーズでまだ残っているのだが、この二つのテーマを深掘りするのは筆者には難しいということに気がついた。より身近な「BIMで省エネ」を取り上げることにする。

1.BIMだからこその省エネ計算

今回もRevitとARCHICADという代表的なBIMアプリケーションを取り上げる。どちらも建物のエネルギー消費を解析するツールが備わっている。Revitでは「解析」タブに「エネルギー最適化」パネルや「冷暖房負荷」ボタンがあり、ARCHICADには「デザイン」メニューに「エネルギー評価」メニューがある。どちらも建物の特定の建設地でのエネルギー年間消費をシミュレーションする素晴らしいツールだが、ここでは専門的すぎるこれらのツールは取り上げない。いやこれらのツールの入り口だけを少し使って住宅の省エネを考えてみたい。

住宅設計で発注者にプレゼンテーションする企画設計の段階で、簡単に誰でも使えてある程度の結果をすぐつかめるツールが欲しい。窓の大きさを少し変えれば、ひさしの出を短くすれば、窓ガラスをトリプルにすれば、断熱材を厚くすれば……。省エネにどう影響するのか設計者として常につかんでおきたい。ここではそんな省エネシミュレーションをやってみよう。ほかにも住宅設計と省エネについてBIMを使って実現できることを紹介する。

Revitの「エネルギー最適化」ツール

Revitによるエネルギー分析の結果

ARCHICADによるエネルギー性能評価

ARCHICADによるエネルギー性能評価の結果

2.平成28年度省エネ基準で計算する

建築物の省エネの最低基準を決めようという「建築物省エネ法」が制定されていて、『平成28年度省エネ基準』がその判断基準に使われている。

住宅についていえば、冬には暖房しても窓や壁からどんどん熱が逃げていくことのないように、夏には室内で冷房しても太陽光で壁が熱くなったり、窓からの日が入ってクーラーがちっとも効かなかったりというようなことがないようにする。その度合いを計算する方法が『平成28年度省エネ基準』で決められている。ここでは後者、夏の「室内で冷房しても太陽光で壁が熱くなったり、窓からの日射でクーラーがちっとも効かなかったり」しないことを確認する計算を、BIMアプリケーションを使ってやってみよう。

計算なので数式があり、その数式に入力する値がある。最終結果は冷房期の平均日射熱取得率、ηA(イータエー)と呼ばれる値だ。この値が東京や大阪なら2.8以下、鹿児島なら2.7以下で合格となる。

今回はテーマとして次図のような平屋建ての木造住宅を取り上げる、建物は南北の線から30度回転した方向に立っている。

冷房期の平均日射熱取得率ηA(イータエー)を求めるのに必要なのは以下の値だ。

U[W/ (m2・K) ]屋根、壁、窓の熱貫流率 ※
A[m2]屋根、壁、窓の面積 ※
fc窓の取得日射量補正係数
νCニューシー、壁、窓の方位係数

上記のうち※印を付けたUとAはBIMアプリケーションから求めることができる。

テーマとする木造住宅(BIM LABO新貴 美子さん設計、ARCHICADで表示)

3.Uを求める

ARCHICADで「デザイン」メニュー→「エネルギー評価」→「エネルギーモデル再検討」を選択し、図の「エネルギーモデル再検討・構造」ダイアログボックスを表示する。ここで例えば図の壁を選択すると、ダイアログボックスの下の方に計算されたU値「0.39W / m2K」が表示され、このU値欄のボタンをクリックすると、壁のU値の計算根拠が「U値計算機能」ダイアログボックスで表示される。熱伝導率などの物性が分かっている材料ならば、ここでその値を変更することもできる。

ARCHICADで「エネルギーモデル再検討・構造」ダイアログボックスを表示

「U値計算機能」ダイアログボックス

4.Aを求める

壁から窓などの開口部を除いた外皮面積も「エネルギーモデル再検討・構造」ダイアログボックスに表示されている。窓の面積は同じ「エネルギーモデル再検討・構造」ダイアログボックスの「開口部」タブで図のようにガラス部とそれ以外の面積に分けて表示される。

窓の面積を詳細表示

さらに窓の行を選択して表示されるボタンをクリックして表示される「開口部カタログ」でガラスの詳細を選ぶことができ、ガラスのU値も設定することができる。

「開口部カタログ」でガラスを設定

5.RevitでAとU

Revitでは壁や窓のタイププロパティからU値を得ることができる。ただし筆者の試した限りではガラスのU値のみがここでは表示され、サッシを含む窓全体のU値は得られないようだ。

壁や窓の外皮としての面積はいったんエネルギーモデルを作成すれば図のように「解析サーフェス」の面積として得ることができる。

窓のタイププロパティに表示されたU値

壁の解析サーフェス面積

6.Excelで計算

計算の材料がそろったのでηA(イータエー)を求めることができる。ここで使うのはExcelだ。Excelで値をシミュレーションしながら楽しく作業できる。

筆者は図のような概算のηAを求めるExcelシートを使っている。どんな建物でも使える汎用(はんよう)のExcelではない。この木造戸建住宅だけに使えるExcelだ。この壁を変えるとどれぐらい断熱性能が上がるか、この窓上のひさしは省エネに効いているかなどをリアルタイムにシミュレーションできる。ひさしの出を800から600に短くするだけでηAは0.693から0.741に約0.05も増えてしまう。

おおむね仕様が固まれば必要に応じて専用のアプリケーションで計算することになる。ここで取り上げた戸建住宅でいえば2.8以下であることが求められるηAは0.693なので十分省エネ基準を満足していることになる。

ExcelでηA(イータエー)を計算

7.太陽光をシミュレーション

夏の太陽光は邪魔者だ。暑い日の夕方にきつい西日が思いがけない方向から入ってくるというのは避けたい。紙上での夏の日差しの検討は最も太陽が高くなる夏至について行われることが多いが、ARCHICADの「日影シミュレーションを作成」を使って1年で最も暑い8月10日ごろの日の出から日の入りまで、大きな掃き出し窓から日が入らないか、動画でチェックできる。特定の日時の太陽光は「3D投影の設定」で表示できる。図は8月10日の西日対策としてオーニングを設置して検討している例だ。

ARCHICAD「3D投影の設定」で8月10日夕刻の日差しを検討

Revitでも「太陽の設定」で日時を指定して静止画として太陽光をシミュレーションすることもできるし、ある期間の太陽光を動画で表現することもできる。図のように「太陽のパス」を表示して、日の出から日の入りまでの太陽の位置をグラフィカルに確認しながら動画を見ることができる。

Revit「太陽の設定」で日照シミュレーション(黄色が「太陽のパス」)

8.近隣建物の影響もシミュレーション

冬の太陽光はできるだけ室内に取り込みたいものだ。そのためには近隣建物の影響もチェックしておきたい。今は南側が空地だったり、低い建物しかなかったりしても将来は高い建物が建つかもしれない。建築基準法の規制の範囲内で建設可能な建物を想定して、新築建物の敷地内での位置、方位を考えるべきだろう。

この近隣建物のシミュレーションにもBIMアプリケーションは役立つ。図はARCHICADによる近隣建物の日影シミュレーションだ。

いずれのBIMアプリケーションでもこれくらいなら30分もあればモデリングできる。

ARCHICADによる近隣建物の日影シミュレーション

Revitによる近隣建物の日影シミュレーション

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