2020年 1月

実務者のためのCAD読本

抜き勾配【3D CADのメリット/第3回】

監修:山田学 執筆:草野多恵

3D CADを使用するメリットとして挙げられる項目の中で、今回はモデルの側面に抜き勾配(ぬきこうばい)を付ける機能を紹介する。金型を利用して製造する部品には抜き勾配を設定する必要がある。機械設計向け3D CADにはこの機能が標準的に搭載されている。また、正しく勾配を設定しているかどうかを検証する機能を持つCAD製品もあり、設定がなされているかの確認も容易だ。

この連載について

今回の連載「3D CADのメリット/全5回」では、より具体的な例を提示しながら3D CADを使いこなすためのコツや注意点などを解説する。

シリーズ記事

3D CADによって正確な勾配を素早く簡単に設定

金型を使用して部品を製作するダイカスト部品や樹脂成形品では、金型から成型品をスムーズに抜き出すための手段として「抜き勾配」を付ける。抜き勾配とは、成形品と金型がスムーズに分離できる方向に付ける傾斜のことである。この傾斜により、金型からスムーズに抜くことができる。従って、これらタイプの部品を設計する場合には、この抜き勾配を考慮する必要がある。金型自体の設計は金型設計担当者が行うことが一般的ではあるが、設計の段階である程度「金型から抜く」ということを考慮することで、設計者が望むとおりの部品を完成させることが可能となる。

抜き勾配のイメージ図(図はかなり誇張してあり、実際の勾配角度はこの図よりもかなり小さい)

機械設計向け3D CADでは、一般的に「抜き勾配」または「勾配」と称するコマンドが用意されており、部品の面に対して指定した角度で勾配を付与することができるようになっている。基本機能はおのおの同様であるが、詳細な設定については各社さまざまな特徴がある。以下、今回はAutodesk Inventorを例にして説明する。

Inventorの場合は、以下の三つの方法で抜き勾配を付けることができ、さまざまなケースに対応することができるようになっている。

図‐1:面自体に角度を設定する。角度の回転軸はエッジで指定する。

図-1 エッジを基準に面に対して角度を設定。

図‐2:角度の回転軸となる位置を決めて、指定した面に角度を設定する

図-2 角度の回転軸を平面で指定する

図‐3:面の中間にPL(パーティングライン)を設定し、おのおのの抜き方向に角度を設定する

図‐3 パーティングラインとなる面を指定し、おのおのの抜き方向に対して角度が設定される

勾配はどの段階で付けるべきか?

フィーチャーベースモデリングの場合、どのようにモデリングを進めるかについては基本的に、実際に加工する順序を想定するとやりやすいとされている。そこでよく懸念点となるのが、面取りや角R、そして勾配をいつの段階で追加するべきか、という点である。これは使用するCADの機能や特性にもよるが、いずれにしても出来上がる形状が自分の想定した形状に仕上がっているかどうかで判断すればよい。その一例を以下に示す。

図-4では、角Rを追加した後に勾配を追加している。この結果、角Rの半径値が下に向かって大きくなっているのが分かる。

図-4 角R追加後に勾配を追加

これに対して図‐5では、勾配を先に追加している。この順序の場合は角Rの半径値が指定した値で保たれているのが分かる。

図‐5 勾配を追加後に角Rを追加

設計として半径値は成り行きでよいのであれば図‐4の順序でもよいということになるが、一定の半径値を保つ必要があるのであれば図‐5の順序で作成する必要がある。

さらに次の例は、勾配の回転軸として指定したい角に角Rを設ける場合である。
図‐6は、角Rを追加した後に勾配を追加している。この場合は勾配の回転軸がフィレットの稜線(りょうせん)となってしまっている。

図‐6 フィレットの稜線が回転軸となっている勾配

これに対して図‐7は、勾配を先に追加した後に角Rを追加している。この場合はもともとの鋭角エッジが回転軸となっている。つまり安定した位置を基準にできているので、このようなケースの場合は図‐6の順序よりも図‐7の順序を採用した方がよいということになる。

図‐7 上面と側面の交差ラインが回転軸となっている勾配

このように、抜き勾配機能は面に対して容易に角度を指定して傾斜を付与できる点では非常に便利であるが、勾配の基準位置を意図どおりに保てているかどうかをきちんと確認する必要がある。また勾配を付与した結果、形状が予測と違う形に変形していないかどうかを確認することも重要となる。この抜き勾配機能の挙動についてはCAD製品ごとに特徴があるので、使用しているCADでいろいろと試してみるとよいであろう。

次回は、分解モデル作成の機能とそのメリットについて解説する。

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執筆者紹介

草野多恵

大手メーカーの宇宙航空事業部門にて、設計から納品までのプロセス管理を担当。
製造業での実務経験を生かし、CADベンダーで約20年間一貫して製造業向けに3D CADの営業技術などを担当。
現在はフリーランスとして、効果的なCAD導入を支援する活動を行っている。

監修・執筆

山田学

ラブノーツ代表取締役、技術士(機械部門)。設計製図の企業内教育を種に活動。著書に『図面って、どない描くねん!』『めっちゃメカメカ! リンク機構99→∞』(共に日刊工業新聞社刊)など。

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