2012年 4月

実務者のためのCAD読本

壁を考える【「おさまり」のいい図面 ~鍵はBIM×二次元CADの相互理解~/第2回:「壁」】

建築系CAD 講師:鈴木 裕二

シリーズ記事

1. 図面に魂を入れる

本連載の機械設計版「世界で戦えるGLOBALエンジニアになるための製図技術」で、筆者の山田学氏は「CADに描かれた物体に魂を入れるために製図作業が存在すると認識すべきである」と書かれた。

筆者はこの「魂を入れる」という表現に「そうだ、そのとおり!」と膝を打った。山田学氏によれば、CADに描かれた物体に「魂を入れる」とは次のようなことを意味する。

  • 寸法基準を決めること。
  • バラツキを制御するために寸法公差、幾何公差を記入すること。
  • 表面性状を記入すること。
  • 材質を指定すること。
  • 表面処理を指示すること。

これらを的確に指示することが図面の品質を向上させ、担当する製品の品質が向上することにつながる。

~図面は英語に勝る公用語~ 1st STEP 第2回:設計と製図の関係/全5回

建築物というモノを作り、維持管理して最後に廃棄するまでの建物ライフサイクルにわたって、必要な情報を図面に入れる。BIMなら図面ではなくてコンピュータ上のデータに入れる。これが建築設計における「魂を入れる」だろう。

今回は「壁」をテーマに、コンピュータ上のデータあるいは紙の図面に魂を入れることを考えよう。

2. 断面詳細は2次元図面で

図1「掃き出し窓の断面詳細図」

上の図はある保育所(スチールハウス構造)の掃き出し窓の断面詳細図だ。

この図面によって「おさまり」が表現されている。床と窓のおさまりが表現されている。床から歩いてきた子どもたちが、この窓の下側の敷居(レール)の部分に素足を載せたとき、どの程度デコボコ感があるのだろうか。そのまま屋外のウッドデッキに足を滑らせたときに少しの隙間に足が挟まれないかという情報もこの図面から読み取れる。

壁と窓のおさまりも表現されている。しかも「*印寸法は打合せによる」という注記があることで、そこは設計者が単独で決めないので施工者と協議して決めましょうという「情報」が書かれている。

建築図面にはこの手の要素が多い。設計者がすべてではないのだ。現場で工事に携わるすべての人と共に建物を作り上げていく。建具のメーカが現場で変更になる可能性も大いにある。

*印寸法という手法で明確に設計者の意思を図面で伝えている。 この建具を3Dモデルで作ることはもちろんできるだろう。あるいは建具メーカがすでに提供しているかもしれない。網戸の開閉までできるような3Dモデルならすばらしい。

でも*印寸法をはじめたくさんの情報を、2次元の詳細図面のようにうまく3Dモデルにおりこむことはできない。BIMではクギ1本1本モデリングしないだろうが、2Dの詳細図にはクギの情報もある。

ということで建具を含む壁の断面詳細はその情報量の多さで2次元の図面の勝ちだ。

・・・なので建具の断面詳細図は2Dで作図しよう。BIMアプリケーションを使っているなら2DCADで作成した図面をBIMのシート(レイアウト)に貼りつけよう。モデルが変更になったときに自動的に更新されないではないか、というBIMユーザの声も聞こえてくるが、そこは聞こえないふりをする。

3. 鉄骨壁の3Dモデル

図2「鉄骨造の壁を3Dモデリング」

上の図は鉄骨造の傾いた壁だ。ガラスもガラスを受けるサッシも梁材もきちんと3Dモデルでモデリングされている。筆者も参加しているBIM LABOというチームがArchiCADでモデリングした。ここに見えるすべての部材は3Dモデルだ。左の断面詳細図も2次元で作図したのでなく、右の3Dモデルを切断表示したものに寸法や引出線を追記しただけの図だ。

3Dモデルなのでおさまりの詳細を実物大の模型のように検討でき、部材の組立手順をコンピュータ上でシミュレーションして問題がないかも検討することができる。 このような特殊なおさまりの壁の検討にはBIMの3Dモデルは最適だ。

手間はかかるが一度モデリングしてしまえば、そのまま断面詳細図や矩計図に使える。もちろん変更にも対応し、施工検討用データにもなる。
前項では断面詳細図は2Dで作図して貼りつけたほうが、図面に「魂を入れられる」と書いた。

ここでは逆だ。3次元でおさまりがチェックできるし、正しい断面詳細図を作図することができる。施工現場で施工する人たちに設計者の意図を明確に伝えられる。

3次元と2次元、どう使い分けるかは筆者も迷うところだ。

BIM LABO

4. コンクリートの窓のまわりの隙間

図3「窓まわりの欠き込み」

コンクリートの壁に窓を取り付けるときは、大きめの開口を作っておいてそこに窓をはめ込む。このコンクリートに空ける開口の形は壁の仕上げや、サッシの形状によって決まる。また雨水が入り込むのを防ぐため上図のように欠き込み、「アゴ」や傾きをつける。
上の図は「国土交通省建築工事標準詳細図」としてホームページで公開されている窓と壁のおさまりだ。

建築の施工図ではサッシの種類を考え、仕上げ材とのおさまりを考慮してこの欠き込みの形状と寸法を決める。設計者がこの形状と施工用寸法を決めることはない。建築確認申請用の設計図書にもこの寸法が記入されることはない。

しかし、いい建物を作る上で重要な施工用の形状と寸法だ。

施工図は現在のところ2次元の図面として作られることが多い。BIM先進国の米国の担当者に「施工図(Shop Drawing)はBIMアプリケーションでモデリングするのか?」と訪ねたら、BIMデータを参考に2Dの図面をAutoCADでかくと返事があった。

ただしBIMアプリケーションのRevitでも、建具まわりの欠き込みをモデリングすることはできる。図のようにRevitのリビールという機能を使ってそれらしい欠き込みを作ることはできた。がその手順は面倒だ。

図4「Revitのリビールを使って躯体コンクリートの欠き込みを作成」

ArchiCADなら窓の設定項目に「抱き」の設定があるので、簡単な設定はできる。ただしこれも詳細な「アゴ」の設定は難しそうだ。

図5「ArchiCADで窓の設定」

もし将来3次元モデルで施工図を作成するようになるなら、この建具まわりのコンクリート形状はきちんと3Dモデリングしなければいけない。

施工図でなく設計段階で作成する2次元の断面詳細図でも、詳細な寸法は別にしてコンクリートの欠き込み形状「アゴ」や下側の勾配は作図、表現しておく必要はある。

なぜならそれが設計者の意思であり、図面に「魂を入れる」ことだからだ。断面詳細図に、こういう施工をしてくださいと図で表現しておかなければ、手抜きの図面、結果的には手抜きの建物になってしまう可能性がある。