2022年 7月 5日公開

【連載終了】実務者のためのCAD読本

光造形方式の3Dプリンターの選定・セットアップ(初期設定)について【初心者のための光造形方式3Dプリンター/第3回】

監修:山田学 執筆:今井誠

  • CAD
  • BIM

前回の「光造形方式の基礎知識(2)」において規制液面法において採用されている三つの光の照射方法について解説した。今回は、光造形方式の3Dプリンターを導入する際の選定基準および導入後のセットアップ(初期設定)について解説する。

この連載について

光造形方式の3Dプリンティングの基本知識を学んだうえで、光造形方式の3Dプリンターの導入、準備、造形、後処理について全5回に分けて解説する。

シリーズ記事

  • * 大塚商会では本稿で紹介している全ての製品を取り扱いしているわけではありません。お客様のご希望製品の取り扱いがない場合もありますのであらかじめご了承ください。

1. 光造形方式の3Dプリンターの選定基準

まず、光造形方式の3Dプリンターの選定基準について解説する。

(1)予算
(2)造形精度
(3)造形速度
(4)造形領域(造形物の大きさ)

(1) 予算

3Dプリンターを導入する上で、最も重要なのが予算である。予算が十分に用意されているのであれば、1台数千万円の産業用のSLA方式でも導入可能である。しかしながら、実際にはそのような潤沢な予算を準備できるケースはまれである。図1に光造形方式における3Dプリンターの価格および造形精度の概要を示す。

図1 光造形方式における3Dプリンターの価格および造形精度の概要

SLA方式は造形精度が高いため、産業分野で広く利用されている。しかし、SLA方式はレーザー光学系やガルバノミラーといった高額な機構を使用するので、価格も500万円~1000万円程度と高額である。2022年現在では、これらの高額な機構を使用しつつも、50万円程度まで価格を引き下げた機種も登場している。一方、DLP方式は、50万円前後と手ごろな価格帯ではあるが、安価なLCD方式の3Dプリンターの普及により、同方式を採用する3Dプリンターの機種が増えていない。このため、今後導入を検討する上で、DLP方式を採用する機種が増えない限り、導入するメリットは少ないと言える。

次にLCD方式は、低価格が最大のメリットである。このため、導入が比較的容易であり、かつ台数を増やすことができる。したがって、予算面で選定するなら、SLA方式またはLCD方式となる。

(2) 造形精度

次に造形精度には、二つの造形精度がある。一つ目はX-Y方向の造形精度(X-Y解像度)、二つ目はZ軸方向の造形精度(積層解像度)である。3Dプリンターを選定する上で、この二つの造形精度が最も重要である。この造形精度が造形物の品質を左右するからである。
図2にSLA方式およびLCD方式のX-Y解像度の概要を示す。

図2 SLA方式およびLCD方式のX-Y解像度の概要

X-Y方向の造形精度は光学系の照射精度に依存する。SLA方式では、レーザー光のスポット径のサイズ(数μm程度)により造形精度が決定する。一方で、LCD方式はLCD(液晶)パネルの解像度に依存し、LCDパネルのサイズ(インチ)と画素数で解像度が決まる。近年では、8Kパネルを採用した機種も出てきており、X-Y方向の造形精度は20μm程度まで向上している。

次にZ軸方向の造形精度(積層解像度)は、おおむね10μm程度である。これは光造形方式の3Dプリンターの多くが、造形物を造形するプラットフォームをZ軸方向にボールねじで上下動させる構造のため、ボールねじの位置決め精度に依存するからである。

近年のLCD方式の造形精度の向上は、SLA方式に迫ってきており、目視による造形物の仕上がり具合では両方式の差はほとんど判別できない。したがって、造形物に必要とされる造形精度に応じてどちらかの方式を選定すればよい。

(3) 造形速度

第2回記事で説明したようにSLA方式は造形領域全体をレーザー光で走査するので、造形領域全体を一括露光するLCD方式よりも時間が掛かる。また、LCD方式ではカラーLCDパネルを採用した機種よりもモノクロLCDパネルを採用した機種の方が造形速度は速い。造形速度が速ければ、その分生産性を高めることができる。生産性では、モノクロLCDパネルを採用した機種が優位である。参考までにモノクロLCDパネルを採用した機種のZ軸方向における造形速度は、おおよそ30mm~70mm/時間が一般的である。

なお、光造形方式の3Dプリンターでは、造形する際の積層ピッチ(照射1回あたりの積層厚さ)を設定可能であり、積層ピッチの設定により造形速度も変化する。例えば、積層する厚さが10mmからなる造形物を積層ピッチ50μmで造形した場合と、積層ピッチ10μmで積層した場合では、積層ピッチ50μmで積層した方が積層ピッチ10μmで積層した場合よりも1/5の時間で造形が可能となるからである。

(4) 造形領域(造形物の大きさ)

光造形方式の3Dプリンターでは、造形物を配置するプラットフォームの大きさ(XY方向)だけでなく、Z軸方向における造形領域についても注意が必要である。光造形方式の3Dプリンターにおいてプラットフォームの大きさ×Z軸方向の造形領域が造形可能な造形物のサイズとなるからである。図3に光造形方式の3Dプリンターの造形領域を示す。

図3 光造形方式の3Dプリンターの造形領域

産業用のSLA方式の3Dプリンターでは、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の造形可能な大きさが1mを超えるものもある。一方でLCD方式では、X-Y方向のサイズはLCDパネルのサイズに依存する。LCD方式の3Dプリンターに採用されているLCDパネルのサイズは、6インチから15インチ程度である。そのため、15インチのパネルの場合、X-Y方向のサイズは330mm×185mm程度となる。一方でZ軸の大きさは最大の物でおおよそ400mm程度である。では、造形領域が大きい物を選定すればよいかというと一概によいとは言えない。造形領域が大きくなるにつれて、レジンを収容するレジンタンクの大きさも大きくなり、タンク内に溜めておくレジンの量も多くなる。その結果、消耗品であるレジンが大量に必要となり、ランニングコストが増大するからである。したがって、光造形方式の3Dプリンターでは、造形したい造形物の大きさに合わせた造形領域を選択するのが望ましく、造形領域を超えるサイズの造形物を出力する場合には、造形物を分割して造形するなどの工夫が必要となる。

以上が光造形方式の3Dプリンターを選定する上での選定基準となる。これら選定基準を検討し、自社の出力したい造形物および運用環境に合わせた機種選択が必要となる。

執筆者紹介

今井誠

精密機器メーカー、精密加工部品メーカーの研究開発、加工開発、機械設計を経て、都内特許事務所にて知財業務に携わる。2020年にやなか技術士事務所を設立する。主に機械設計、加工方法、3Dプリンター、PL法に関する講演や社内外の研修講師に従事している。

監修・執筆

山田学

ラブノーツ代表取締役、技術士(機械部門)。設計製図の企業内教育を種に活動。著書に『図面って、どない描くねん!』『めっちゃメカメカ! リンク機構99→∞』(共に日刊工業新聞社刊)など。

ページID:00226960